ここ最近レコード蒐集をはじめた身ながら思うこととして、いまやレコードは売り手市場だということ。現在では生産が望めない媒体なのだから、その成り行きは必至だよね。かつてレコードを愛聴した世代に加えて、私のような「実際に目にしたことはあって聴き方くらいは」のようなCD世代、さらには「一周回って逆にエモくね?」なるサブスク世代さえ売り場ではよく見掛ける

 

今日において、こうしたレコードに収められているのは、なにも音楽ばかりではない。かつての持ち主がそれをどうして手に入れていかにして手放したかという物語も乗せられている。その波紋を針がなぞるとき、我が家に縁あってやって来たこの円盤にかつての持ち主がどう聴き入ってのかについてを束の間考えさせられる。もし私の解釈が合っているなら、そこが最高に「エモい」と感じている

 

いつだってそうだけれど、あまねく音楽はこの身を何処か遠くへ連れ立ってくれるかと思えば、これまで気付かなかった身近な物事について深く考える機会をくれることもある。そうした意味において、いわんやレコードほどその解像度を上げてくれる媒体を知らない。「音質が…」「劣化が…」とかどうでもいいよ、今聴きたいのは御託じゃないから(字余り)

 

 

 

サウンドトラック 東京ディズニーランド・ミュージック・アルバム CX-7168-DR

先達てそう書いたような世代であるから、既にこの音源はCDで持っている。これを買ったのは確か中学生の時で、「最初にお小遣いをはたいた音源」を問われたら、かくてショパンのワルツ集や当時好きだったアイドルのシングルから数えても十本の指には入っていたはずだよ。今となっては存在しないアトラクションやたとえ存在はしていても別形態を極めているそれらを思い出すための糸口として折に触れて聴き返していたから、また別媒体と出逢えてその差異を楽しめるのが最高にうれしい。

特にお気に入りなのは、唯一トゥモローランドから選り抜かれた"MEET THE WORLD"の主題歌である同名曲。幼い頃はこれを聴きながらアトラクションを離れる時に見られる「未来の家」のような場所に本当に住めると思っていたよ。まさか取っ手の付いたドアを手動で開閉して、今なお木製の家具に囲まれながら家庭菜園プラントなしで暮らしてるなんて、当時の自分に話しても到底信じてもらえないだろうな

 

小澤征爾 武満徹:「カシオペア」 EAC-70205

同じように、こんなの音楽愛好家に話しても信じてもらえないんだろうな。この日本において音楽鑑賞を趣味としているくせに巨匠・武満徹の手仕事についてほとんど知らないまま、それでも平気な顔をしてブログまで書いている人間がいるってこと。こうして書くだに、なんて図々しい人物なんだ。いつか夜道でバッサリやられてもおかしくない神経してるよね。自分の名誉というよりも家族の平安のために付け加えるなら、同氏の代名詞とも言える『ノヴェンバー・ステップス』は授業で聴いたことがあるし、何なら合唱畑出身だから「死んだ男の残したものは」とか「小さな空」は主旋律くらいなら口ずさめる。あまり管弦楽や歌曲の素養を持たないので、この"カシオペア"とは初対面で、もし「理解できたか?」と訊かれたら全然そんなことはない。のに、否、だからこそ「また聴きたい」という欲求が底知れずあふれて来る。巷で当時なんと言われていたかは知りようがないけれど、この二大看板の好相性振りは否定しようがない。だからこそ聴く人間を選ぶ、私は文字どおりに「選ばれて」しまったのだ

 

Flash Gordon : QUEEN | HMV&BOOKS online - UICY-15073

「最も愛するべきフレディの長所を挙げてみて」って言われたら、その回答はさまざまあるだろう。それこそがいつまでもQueenが色褪せない理由と重なる部分でもあるけれど、私にとっては彼の歯頸部以外の答えなら「つとに素晴らしい作詞/作曲家であり演奏家であったにも関わらず、これだけ多くの音域や音色を自在に操る魔術師でもある」という点に惹かれる。これは同題の映画のサウンドトラックとしてリリースされた、彼らにとって約40年を誇る歴史上でも珍しい趣きのレコード。本アルバム収録曲はメンバーそれぞれが楽曲を担当し、その魅惑の声帯をフレディが披露するのはわずか2曲に留まるものの、それにも関わらずに彼の存在感を色濃く残している。

「いまさら?」って疑念を抱かれるかも知れないし、私自身も今まで持っていなかったことを疑問に思っていた。そうして念願叶って自宅で再生を終えてしまおうとしたところで気付いたんだよね。私がはじめて購入したQueenのアルバムがこれだったってことを…いっせーので笑わす!

 

パピヨン

以前に貼付した"The Walt Disney Studios Park”の入場門で夜間に流れるBGMは、誰しもの心を虜にして止まないようだ。これを聴いている時にたまたま私の部屋で「その動画いいね」と君が言ったから、その日はふたりの音楽記念日になった。この動画中で流れる名曲を順位付けるのは難しいといえ、私にとっては"Somewhere in Time(ある日どこかで)"が最もしっくり来る答えだった。同じく夫に質問をぶつけてみたら「断然"パピヨン"の主題歌が好きだな!」というので、改めてじっくり聴いてみた印象から想起し得るあらすじは『追憶』のような内容で、あたら花を咲かせどもやがては散り枯れる花の都・パリの街角で男女がそれに擬えた出逢いと別れを繰り返すというもの。よもや「冤罪」「終身刑」「脱獄」のようなキーワードで表わされるそれだなどとは思い掛けもしなかった。恐らくはこのアコーディオンがそう思わせたのだろうな(…と、他人に罪を擦り付ける)。昨今の世界情勢然り人間の尊厳にとって最も重んじるべきは「誰にも害されずに生きる権利」と「自由」のふたつに集約されよう。この世界でそれを侵されている人を助けられるほど万能ではない。しかして、その存在を常に心に留め置ける人間でありたい

 

ピーター・コーネリアス: バグダッドの理髪師 (2-LP) - 画像 4

「これ!」と狙いを定めた円盤はあるものの、いつでもレコード取扱店における出逢いは予期せぬ事故に似ていて、自分ではその出逢いを選び得ない。それは況や恋と似ている。その心の準備が出来ている季節にはお目に掛かれないこともあるのに、「もうこりごり」と手放したがる時に限って一度に大挙して押し寄せるなんて珍しい話じゃないよね。それと同じく平尾貴四男の交響曲を探している時に武満徹に出逢ったり、いわゆる名盤を探している最中に稀少盤に出逢ったりなんてことだって充分にあり得る。

かつて「ピアノの魔術師」ことフランツ=リストが初演の指揮を請け負って、その失敗のために同職を辞する顛末を呼んだオペラの存在は知っていた。所謂"掘り出し物"のコーナーにあった同作品がそれだったなんて夢にも思わなかったよ。だって、あくまで音楽に明るくない私が仄聞する限りにおいて、これは素晴らしく「エモい」んだ。その初演以来長年にわたって劇場における再演がないのは何故だろう。まるでオペラ愛好家の真髄が分からないよ、私はこれを劇場で聴きたい

 

 

 

昨今では風通しがよくなって、従来とはあらゆる意味で毛色の違う作品が上演されるようになったオペラ界隈。ここに挙げた下3作品に関してはオペラ化ならびに再演してほしい決定盤ばかりだよ

 

もし私がオペラ劇場の総裁なら、のみならずにブリテンの『戦争レクイエム』を上演するだろうな。普段は「反体制」や「革命」を題材にした音楽や演劇に親しんでいるくせに、ここに至って弱きに寄り添えずに、あまつさえ冷笑する者をも許容するのが芸術なら、彼らの曇った瞳を目覚めさせるのも、また芸術の務めだと思うから