ガイド氏がほとんどベトナム戦争のことを口にしなかったのはパック旅行だったからでしょうか。それとも、40前に見えるガイド氏にとってはすでに実体験を伴わないことだからでしょうか。
ハノイを案内してくれたガイド氏だけが、たった1度「ベトナム人は緑を大切にします。アメリカとの戦争に勝ったのも緑を大切にしていたからです」と言ったのが印象に残っています。
ミーソン遺跡を案内してくれた時、たまたまガイド氏と2人だけになったので、「枯葉剤が多くまかれたのはどのあたりですか」と聞くと、「ここです。このあたりが、一番多かったです」と言いました。
そこはジャングルというほどの鬱蒼とした森林地帯でなかったのが意外でしたが、この遺跡の一部は解放軍が基地として利用していたために、空爆の対象になったのだそうです。
<化学薬品を空からまかれて枯れ崩れた広大な灌木林のよこを通ったが、月光を浴びてそれは凄愴な形相をおびていた。立枯れした木たちが数知れぬ蒼白な骨と見えた>(開高健、輝ける闇)
ミーソン遺跡の遠くに左側面が激しく切り立った山が見える。生きるか死ぬかという時に、ああいう形状の山を見るのはつらいだろうなと思った。
「この巣は何の巣でしょうか」とガイド氏が聞く。どういう種類の鳥なのか聞かれたと思ったので、「鳥としか言いようがないけど・・・」と独りごちたら、
「蟻です。蟻の巣です。雨を逃れて木の上に巣を作っているのです」
「あの時、アリたちはどこへ逃れたのだろうか」とふと思った。

