「ロマンVS経済」 | 熊本阿蘇~火の国探訪記

熊本阿蘇~火の国探訪記

「熊本」は、火の国でもあり、また霊(ひ)の国とも言われています。

熊本や阿蘇の歴史や伝承をひもときつつ、この土地の持つ魅力に迫っていきたいと思います。



約10年前。大手住宅会社に勤める友人との会話。遊びに行く約束をしている日の前日。

「明日は、予定通り大丈夫でしょうね?」
「はい。今のところ・・・。遺跡さえ出なければ」
「遺跡?」
「はい。遺跡が出たらアウトなんです」

住宅を建てる前、地質とか地盤の調査が行われます。詳しくは知りませんが、多少、土地を掘り起こすのでしょう。その時に、遺跡が出ると、調査が入ります。そのため、工事がストップしてしまうらしいのです。重要な遺跡だと判断されると、建設工事そのものがキャンセルされてしまう場合もあるそうです。

長年の営業努力の末、やっと辿りついた契約。一戸建て住宅の場合、単価も〇千万円と大変なものです。遺跡が出たら、契約が吹き飛んでしまうかもしれない訳です。そこで彼らは「どうか、遺跡が出ませんように」と祈るのだそうです。

一戸建てでも単価は大きいですが、これが大規模な住宅地や工業用地といった規模になると、動くキャッシュも桁違いです。

掘り返した土の中に、チラリと土器のかけらや鉄器が見えたとしても「今のは、見なかったことにしよう」とさりげなく埋め戻す。

そうしたことが起こったとしても不思議ではありません。いわゆる「大人の事情」というやつは、それ以外にも、まあいろいろとあることでしょう。

大津町の場合、300点もの鉄器が出た弥生遺跡があり、その近くに多々良という地名があり、製鉄遺跡も発見されているのであれば、輸入品ではなくこの地で鉄が作られていた、と考える方がむしろ自然です。しかし、大津町は鉄に関して、特にアピールすることはしません。理由は、いろいろあるかもしれませんが、「古代製鉄の里」として町をアピールし公園などを作るよりも、工業用地や住宅地を造成し、企業や多くの人を集めた方が、間違いなく税収は増える、ということも考えられます。

ロマンと経済。これらが天秤にかけられると、多くの場合ロマンが敗北します。その結果、古代を探る手がかりは失われていくわけですが、少ない手掛かりをたぐりよせて謎を究明していくのも、またロマンなのかもしれません。

いずれにせよ、今、伝えられている歴史というものが必ずしも正しいとは限らない訳です。

定説に異論を唱えると、すぐに「トンデモ系」に位置付けられますが、まあそれはそれとして、歴史を再検証することには、意義があると思う次第です。