千鳥足。 | エニグマ/奇妙な話

エニグマ/奇妙な話

幽霊話ではない不可解な怪奇現象、怪談奇談の数々。
これらは全て実際に起こった出来事です。

この世界は、あなたが思っているようなモノではないのです。

駅からの帰り道、いい気分で酔っ払い暗い田んぼ道を帰っ

ていると、ふと向こうから同じように千鳥足でやってくる者

がいる。


ああ、ご同輩だな、それもかなり飲んだと見えて俺よりもひ

どい有様だ・・・。


足を止めてニヤニヤと相手を見る。

一歩踏み出すのも覚束ないのか、随分と苦労して歩いている。



ぐにゃ・・・ぐにゃ・・・ぐにゃ・・・ぐにゃ・・・・・・・ぐにゃ。


・・・・・・・・・・違う。

あれは酔っ払いではない。

だんだんと近づいてくると、その相手はモンペかジャージかよく

分からないぼろぼろの服を着て、うなだれるように歩いてくるの

が見えた。

まるで骨がないのか海月のような動きであるし、それにどことな

く体の形も歪んでいるように見える。

ひょっとしたら障害のある人じゃないだろうか。

酔いは冷めたが、だとしたらこんな夜遅くに彼も大変である、駅

まではまだ少しあるが大丈夫だろうか。

そう思っていると、相手は急に向きを変えた。

そのまま、ぐにゃ・・・ぐにゃ・・・と田んぼの中へ入っていく。

やがて田の真ん中辺りにまでたどり着いたのが、薄明かりに

見えた。



彼は立ち止まり、ゆっくりと顔を上げ、背筋を伸ばし両手を広げ

たままのシルエットで、ピクリとも動かなくなった。



蛙の鳴き声が止んだその田んぼの前で、しばらくあっけにとら

れて見ていたが、やがてソレがヒトではなく案山子であることに

気づくまで、そう長くはかからなかった。

あとは酔いも忘れて、全速力で家まで走り帰ったそうだ。



家の近所での出来事だったので、祭りの日にこの話を知り合い

の農家に聞いてみると、田の持ち主も相当に気にしているから

黙っといてやってくれ、と言われたという。


曰く、持ち主はその田んぼで案山子など作ったこともないらしい。

話を聞くたびに何度も確かめに行くが、そんな案山子を見つけた

ことはないそうだ。



茨城に住む男性から聞いた話である。