仏像。 | エニグマ/奇妙な話

エニグマ/奇妙な話

幽霊話ではない不可解な怪奇現象、怪談奇談の数々。
これらは全て実際に起こった出来事です。

この世界は、あなたが思っているようなモノではないのです。

父が母に話していたのを横で聞いていた話である。

改めて調べてみると、どうやら私が中学生くらいの頃だったようだ。


いまから30年ほど前、ある週刊誌が日本に存在するピラミッドなる

ものを盛んに特集していた時期があった。

天然のものだと思われていた山々のなかに、古代のピラミッド群が

混じっているのでは・・・という話だったと記憶している。


当時父は広告代理店に勤めていたのだが、そのピラミッド・ムーブメ

ントの火付け役である雑誌編集長を招いて、会社支部のセミナーにて

スピーチを依頼したことがあった。

スピーチの内容そのものについて、父がどのように語っていたか忘れ

てしまったが、その調査にはある超能力者が協力していたそうだ。

確たる証拠が見つからなかったのか、このピラミッド騒動はその後すっ

かり鳴りをひそめてしまったが、当時の文化庁が少なからず興味を示

していたようである。


セミナーが終わり、主催責任者の父が編集長を交えて談笑していたところ、

彼は、さっきの講演会で話さなかったことがあるのですが・・・と言った。


どのような経緯でそうなったのか、件の超能力者が調査に関わる人間

たちの前で自分の能力を披露することになったという。


その場にいた複数の人間がテーブル上を注目するように促され、全員が

注視する中、彼が手をかざすと


テーブルの上にフッと仏像が出た。


超能力者がとくに怪しげな動きをしたようにも見えなかった。

誰もそのテーブルの上から目を離さなかった。

もちろん瞬きはあったかもしれないが、コンマ何秒ではたして仏像をテー

ブルの上におくことが出来るかどうか、である。

どうみても、その仏像は唐突なくらいテーブルの上に現れたとしか言えな

いのだ。


巧妙な手品か、いわゆる集団催眠ということかも知れない。

それはそれで見事というしかない。

しらない間にガスか何かを含まされて感覚がおぼろげになった可能性も

ある。

ありとあらゆることは考えられるが、では仏像そのものはどうだろう。


成分を分析したところ、その仏像はナニから出来ているのかがまったく分

からなかったという。

仏像の高さは約20センチほどだったそうだ。


驚いた父が何故その話をしてくれなかったのですかと聞くと、

編集長曰く、


「そんな話、誰が信じますか?私でさえ信じられないのに。話したらピラ

ミッドの話までウソ臭くなるじゃないですか」





もちろんその仏像の件も不思議ではあるが、オカルトめいた話とは縁の

ないはずのサラリーマンたちがそのような世界を間近に接したという、

その状況自体もなんだかとても不思議に感じられたように記憶している。

田舎の中学生にとってこの話は、父という現実を通して、遠くでちらちら

見える妖しげで魅力的な光のように映っていたのかもしれない。




追記。

そういえば、父の友人があまりに恐ろしい霊体験したという話を

聞かされたこともあった。

堅実なサラリーマン稼業も、さほどそういうものとは無縁ではない

のかもしれない。

このブログではあくまでエニグマを語るものとしているので、

そちらはまた機会があれば残したいと思う。