まずタイトルに魅力を感じ、図書館で借りて読みました。ウクライナとロシアの戦争も終わりの見通せない現在、争わない社会とはいったいどういうもので、その実現に近づくことなんてできるのか、筆者の考えを知りたいと思いました。

 

以下、気になった箇所の抜粋です。

 

*    * * * *

 

ここで私の言う「争わない社会」とは、争いや暴力が皆無の理想郷ではなく、争いの激化を予防する「依存のネットワーク」が張り巡らされた社会である。

 

争いの道へと走り出す手前で、権力の集中に歯止めをかける方策を考えなくてはならない。

 

依存を忌避する方法ではなく、依存と向き合い、手なずける方法が問われているのである。

 

豊かな者は豊かさや特権を正当化する思想を欲し、不確実性を減らして自らの特権や貯えを次の世代に相続していきたいと考える。

 

人間の関係性を問い直すことを通じて得られる「問題を未然に防ぐための知」は、今、何をすべきかを指し示す「起きてしまった問題に対策を講じるための知」より目立たないし、分かりにくい。しかし、私はここにこそ「批判ばかりで現実的には役立たない」と揶揄(やゆ)されがちな文系諸学の大いなる貢献の余地を見出す。人間同士の依存関係を組み直して「争わない社会」への礎を築く。本書は、その可能性に望みをかける社会科学からの挑戦である。

 

*    * * * *

 

自立はいいことで、依存はよくないことだと、私は素朴に考えていました。しかし、この本で説明されていた、依存先が選べるという、開かれた依存の状態なら、悪くないのかもしれないと今は感じています。誰にも依存しないで、すべてを自給自足でやっていく、なんて極端な場合を考えても、依存のネットワークに組み込まれた状態の持つ魅力は、わかりやすいと思います。また、戦後に学校の教育現場で実践された「生活綴方(つづりかた)」というものが、「理想と現実とのギャップ」に気づかせるものであったことなども紹介されていました。それから、中間集団というものを大切にすることで、何かに「全面的に帰依(きえ)」しなくて済むような、頼れる仲間をいろいろな場所につくることも、横のつながりに欠けた孤立化した個人を生み出さないようにするのに役立つ、ともありました。

 

様々な角度から考えて書かれた書籍なので、うまく全体像を伝えるのが難しいですが、しばらく経ってからまた借りて、目を通してみたいなと感じさせてくれる本でした。貸し出し期限が今日までなので、いまから返却してきます。