巨大地震が来た直後、必ず見る映画が「日本沈没」である。ただしそれは、橋本忍脚本、森谷司郎監督がタッグを組んだ1973年版だ。

 

 この超ヒット作は、発売3日目に、田中友幸プロデューサーが映画化権を原作者の小松左京から得て、すぐさま映画化に入った。公開は翌年の3月に予定されたが、東宝社長の「どうしても正月映画にしたい」という要望に応え、撮影期間を6ヶ月から4ヶ月に短縮して、突貫工事で撮影された。しかしそれでもなお、説得力あるSF映画の傑作に仕上げたのだから、見事なものである。

 

 1995年1月17日の阪神淡路大地震、2011年3月11日の東日本大震災、そして歴史的元日となった今回の能登半島大地震…。それら巨大地震が起こるたびに、私はこの映画を見て確認している。一体何を確認しているかといえば、それは次の2つの点なのだ。

 

 まず第1点。この映画には、地球のメカニズムや、なぜ日本には地震が多いのか?を、たった4分間で解説してくれる伝説の名シーンが含まれているからだ。教えてくれるのを、東京大学の地球物理学の権威、竹内均教授。下手な役者が演じるのではなく、本人が演じているのだから、説得力は抜群である。

 

 私は橋本忍に、「あの講義のシーンはシナリオに書かれたものか?」と聞いたことがある。すると、「スタッフが事前にレクチャーを受けた時、あまりにも分かりやすかったので、プロデューサーの意向で映画に取り入れた」と答えた。

 

 竹内教授の話によれば、地球内部には〝マントル対流〟という半熟卵のようなグニュグニュとした半固体の部分が、ゆっくりと移動しているという。その噴き出し口にできたのが〝海底火山〟で、沈み口にできたのが〝海溝〟だという。深淵な日本海溝はその沈み口に当たり、そこに堆積して隆起したのが日本列島なのだ。地震はその断層の境目で、時たま発生するズレだといえる。そんな地球でもまれな、不安定で危険極まりない場所に、なんで54基もの原発を造ったのか?と為政者に問いたくなってくる。

 

 もう一つの確認ポイントは、その為政者の態度である。岸田総理は記者会見で、記者の原発に関する質問に対し、真摯に答えようとしなかった。それに対し、丹波哲郎扮するこの映画の総理は、大群衆が火災を逃れて、宮城(皇居)めがけて押し寄せてきた時、宮内庁に「門を開けてください!」と懇願する。また日本国民の移住先を各国に依頼する時、「国連や外務省の特使に任せるのではなく、私自身が外国に出向こうと思います」と表明する。

 

 そこには、危機に遭遇した時に真っ先に行動しなければならない為政者の理想像が描かれている。こんな危機的状況の時だからこそ、岸田総理には、この映画を見てもらいたいと切に願う次第である。