東條英機は、スキンヘッドに丸眼鏡、口ひげを湛えているので、誰が演じてもすぐわかる。その点はヒットラーと同じだと言えよう。
「日本のいちばん長い日」(2012年)のリメーク版で、冒頭に、原作にない東條英機(中嶋しゅう)が突然姿を現わす。なぜ彼が出てくるのかと言えば、アメリカで、山本五十六と並んで有名な日本の軍人は、東條だったからだ。いかにもアメリカ人がどう見るか?に気を使った原田眞人監督らしい演出だった。
アメリカ人は東條を、日本を戦争に導いた張本人と見なしている。「開戦前夜」(26年)を見ても分かる通り、当時、内閣総理大臣でもあった東條(佐藤浩市)は、周囲の勢いと忖度により、太平洋戦争の火付け役となった。
もともと彼は、満州の関東軍参謀長として名を挙げた人物だった。この頃の彼が登場するのは、「戦争と人間」第三部(1973年)においてだ。台詞はないが、無名の俳優が、その存在感を不気味に表現していた。
彼を主役に据えた映画は「激動の昭和史 軍閥」(70年)が筆頭だろう。小林桂樹が、ひたすら苦悩する苦労人としての東條を演じた。その他、「トラ・トラ・トラ!」(70年)の内田朝雄は、戦争好きの粗暴な軍人、「プライド・運命の瞬間」(98年)の津川雅彦は、連合国の横暴に敢然と立ち向かった好人物として描かれていた。
東條は終戦直後、GHQの召喚を受けた瞬間、拳銃自殺を図る。米軍の「何としてでも救命しろ」という司令によって、米兵からの輸血を受けて生き延びた。彼らは東條を裁判にかけたかったからだ。巣鴨プリズンに収監中の東條(火野正平)は、「終戦のエンペラー」(2012年)で描かれる。
そして彼はA級戦犯として、東京裁判の被告席に立つ。すごいのは、「大日本帝国」(82年)で東條を演じた丹波哲郎だ。例の〝丹波節〟で、「我々は悪くはなかった!」と、滔々と大演説を行なう。
しかし記録映画「東京裁判」(83年)における実際の東條を見れば、とても大それたことを起こすような人物には見えない。小心翼翼とした、人のいいおっちゃんといった趣きだ。
結局、東條の本質を突いているのは、映画ではなく、テレビドラマではなかったろうか。TBS制作の「日米開戦と東条英機」で、東條を演じたのはビートたけし。ナビゲーター役の徳富蘇峰(西田敏行)が、「要するに彼は首相の器にあらず」という日記の一文を読んで、エンド・タイトルを迎える。
この言葉を聞いて、溜飲が下がる思いだった。要するに我々は、「首相の器にあらず」の人物に国の命運を預け、太平洋戦争に突入して行ったのだ。歴史に学ぶとするならば、現在の日本がそうならないことを切に祈るのみである。

