ドーン・アダムズ(左)とチャップリン

 

 現在公開中の「ナポレオン」を見ながら、あの女優はどこかで見たことがあるなぁと、上映中、気になって仕方がなかった。ナポレオンが愛する永遠の恋人ジョゼフィーヌである。

 

 見終わった後にプレスを読むと、名前はヴァネッサ・カービー。イギリスの女優さんで、「ミッション‥インポッシブル/フォールアウト」(2018年)に出演したとある。ああ、足にナイフを隠し、大立ち回りをやったあの御仁かと納得がいった。

 

 いやいや待てよ。それ以前にもどこかで見ている。と思って更に調べてみたら、テレビの「名探偵ポワロ」の第66作目『象は忘れない』(13年)に出ていた。自分でとったメモを読むと、「事件の鍵を握るキーパーソン。演技もいいが、左目の横にほくろがあって、えくぼが可愛い」と記している。〝栴檀(せんだん)は双葉より芳し〟。大成する人は、初期の頃から、どこか目立つものだ。

 

 「ポワロ」といえば「シャーロック・ホームズ」。私は大の〝シャーロキアン(ホームズの熱狂的ファン)〟で、世界で作られたホームズの映画やドラマはほとんど見ている。

 

 アメリカで制作されたテレビ・シリーズ「シャーロック・ホームズ」(1954~55年)は、精悍というよりは、どこか間延びしたロナルド・ハワードがホームズを演じる。コナン・ドイルの原作もまじえてあるが、ほとんどがオリジナルのシナリオによるもの。また30分の短いドラマなので、お手軽感は否めない。

 

 しかし、全39作中の20作目『うっかり者の女性活動家』を見た時は、身を乗り出した。ヒロインを演じたユーモアある女優が、ケタ違いに魅力的だったからだ。その清楚さはオードリー・ヘプバーンに、そのふくよかさは若い頃のエリザベス・テーラーに似ている。「この女優なら絶対に映画に出てるゾ」と思って、最後のクレジットに目を凝らした。

 

 名前はドーン・アダムズ。昔の女優辞典をめくってみると、「ニューヨークの王様」(57年)でチャップリンが指名したヒロインだった。ある小国の王様(チャップリン)がアメリカに亡命する。しかしそこは広告業界とマッカーシズムが横行した町。チャップリンがかつて体験した赤狩りへのうらみつらみを述べた文明批判映画である。彼女は2つの世界を取り持つ放送局の職員を演じている。舞台はニューヨークだが、撮影はイギリスでなされた。イギリス人である彼女が抜擢されたのも、その辺の事情によるのだろう。

 

 彼女がその翌年に出演したのが「狂った本能」(58年)…。ナニ? この映画なら見ている。難破した孤島に男一人と女三人。中学生の頃、深夜に放映されたキワ物だ。「誰も来るな、来るな…」と祈りながら、手に汗握って見た思い出がある。あの肉体派女優だったのか。彼女はその後、華々しい活躍はしなかったようだが、こうした過去の名作をたどりながら、粒よりの女優を発掘することは、映画ファンの隠れた楽しみだといえよう。