なにしろ、こんな映画の批評は書きにくい。ストーリーが二転三転……いやいや四転、五転するので、ストーリーを紹介するだけでは、批評にならないのである。現在公開中の映画「ドミノ」のキャッチ・コピーは〝冒頭5秒、既に騙されている。〟である。

 

 監督、脚本を担当したロバート・ロドリゲスはこう言う。「観客が次の動きを予測できたとしても、そのまた次、さらにその後までは読めないはず。それだけたくさんの〝ひねり〟を企ててみた」。この映画には、そうした〝ひねり〟が何度も用意されている。それが〝ドミノ倒し〟を連想させて、「ドミノ」と名づけられたのである。

 

 冒頭は、刑事ローク(ベン・アフレック)がセラピニストから心の検診を受けているシーンだ。彼は最愛の娘が行方不明になったことによって、心身のバランスを崩していた。そこに銀行強盗予告の密告が入る。現場に駆けつけると、不可解な男(ウィリアム・フィクナー)と遭遇する。この男はどうも娘の行方に関与しているようだ。ロークは2人の警官を伴って屋上まで男を追いつめると、男に暗示をかけられたように警官たちは、お互いを撃ち殺してしまう。男は屋上から飛び降りて姿を消した…。

 

 ロドリゲスは、「この複雑なシナリオを、最初は他の誰かに高く売ろうと思った」という。ところがなかなか完成しない。そこで2015年、ついに自分で監督しようと決意した途端に、2か月間で一気に書き上げることができた。

 

 次に主演を誰に託そうか?と考えた。ヒッチコック映画のように、有名スターが一人、絶対必要である。そこで既知のベン・アフレックに読んでもらった。彼は役者だけでなく、「グッド・ウィル・ハンティング

/旅立ち」(1997年)で、幼馴染のマット・デイモンと脚本を共同執筆し、アカデミー脚本賞を受賞。また「アルゴ」(2012年)では監督もこなし、加えて家族思いの優しいパパである。アフレックはこのオファーを快く引き受けてくれた。「このシナリオは多層構造になっているが、そのたびごとに、ああ、そうなのかと理解できる。その連環性が面白い」と称賛する。

 

 2020年、撮影は開始されたが、コロナ禍によって何度も中止の憂き目に遭った。結局、ロドリゲスが所有するトラブルメーカー・スタジオで大部分の撮影を終了させた。「最初は55日の予定が34日になった。だから余計に友人のアフレックでよかったと思った。なにしろ彼は、『今でもこんな撮影をやるんだね』と言って、スケジュールが転々と変わるインディーズ的な仕事を面白がってくれた」と、ロドリゲスは苦笑する。

 

 シナリオだけでなく、その撮影も二転三転してしまったというお話である。加えて、シナリオが一気に完成したというエピソードも含め、〝窮地は身を助ける〟という教訓が成り立つのかもしれない。