海外に行った時は、できるだけ映画館に入って、その国の映画を見ることにしている。最後まで見なくてもいい。それだけで、その国の映画製作や映画興行の実情が分かるからだ。
フィヨルドを見に、北欧ノルウェイのベルゲンという小さな都市に行った時、夜は映画館に足を向けた。町には映画館が6つあった。日本では、まず見られないノルウェイ映画を見たが、アメリカ映画に慣れた感覚からしたら、えらく刺激が少なかった。まるでひっそりとした北欧の自然のように静謐だった。
そうした珍しい北欧映画のなかで、アイスランドから愛すべき佳作が到着した。「好きにならずにはいられない」は、日本タイトルが少々気恥ずかしいが、内容は真っ当で珠玉のような作品だ。2015年北欧映画ベストワンを決定する「第12回ノルディック映画賞」を受賞している。
主人公のフーシ(グンナル・ヨンセン)は、43歳のデブで独身、童貞。アイスランドのレイキャビックの空港で、手荷物係りとして単調な日々を送っている。そんな息子を見かねた母が、女性との出会いをさせようと、ダンススクールのクーポンをプレゼントする。そこで彼は心に傷を負った小柄な女性と知り合う。彼女の家に行ってみると荒れ放題。孤独だった彼の人生に変化が訪れる…。
小心者の男性が、愛する女性のために純愛を捧げ、自から思いもよらぬ行動を起こす。そうしたパターンは、これまで、「マーティ」(55年)や「ロッキー」(76年)という小市民的な映画で、さんざん描かれてきた。それらと何が違うかといえば、寒々とした厳しい北欧の風景がクッションとなって、2人の触れ合いの温もりを、より強固に感じさせる点だろう。
監督、脚本を担当したダーグル・カウリは、1973年にパリで生まれて、アイスランドで育った。「フーシを演じたグンナルは、15年前に、テレビで彼のコメディ番組を見て気に止まった。いつか彼を主役で映画を作りたいと思って、彼のために脚本を書いたのさ。これからも、僕が撮るすべての映画で使いたいね」というほどの惚れこみようだ。
当のグンナルは、「バルト海を航海する貨物船で料理人として働いている時に電話をもらった。『君がこの仕事を受けてくれないと作らない』と言われた。でも私は、脚本を読んでも、進行は遅いし、特に事件も起こらないし、いい作品になるとはとても思えなかった(笑)」と語る。なるほど、フーシを思わせるほどの控えめな俳優だ。
しかし2015年12月のマラケシュ国際映画祭では、主演男優賞を受賞。トロフィーを渡したフランシス・フォード・コッポラ監督から、「あなたのような人が増えれば、世界はもっとよくなるのに」と言われたそうだ。
