三島事件の直後に販売された「週刊現代」の三島特集号
昨年の東京国際映画祭で、発売されるや一気に完売したのは「MISHIMA」(1985年)の切符だった。作家・三島由紀夫の生誕100周年を記念して企画された特集での上映だった。
彼の『金閣寺』『鏡子の部屋』『奔馬』という3本の原作を映像化した、日米合作のオムニバス作品。映画は、三島が自決した1970年11月25日から始まる。三島(緒形拳)が朝起きて、隊員たちと市ヶ谷の自衛隊駐屯地へ車で向かう。その間に、回想シーンと、前述の三島作品が挟まるという構成になっている。
監督・脚本は、「ザ・ヤクザ」(74年)や「タクシー・ドライバー」(76年)の脚本を書いた大の親日家ポール・シュレイダー、エグゼクティブ・プロデューサーはフランシス・フォード・コッポラとジョージ・ルーカス、音楽はミニマル・ミュージックの旗手フィリップ・グラスという錚々たるメンバーだ。特にこの映画で評価の高かった美術を担当した石岡瑛子は、後にコッポラが監督した「ドラキュラ」(93年)に起用され、米国アカデミー衣裳デザイン賞を受賞する。
ところが、「MISHIMA」は日本では公開されなかった。理由は、同性愛的描写等に対して、瑤子夫人が反対し、右翼団体の一部が抗議活動をするという噂が流れたためだ。おかげで、今日までビデオもDVDも発売されず〝幻の映画〟と称された。それ故、昨年の映画祭での上映が、日本初の公的上映となったのである。
しかしアメリカではビデオで販売されていた。私はその海外版ビデオを手に入れ、公開当初から鑑賞は済ませていた。ラストでは、市ヶ谷で割腹自殺する三島が描かれる。しかし彼の割腹への愛着は、この時に始まったものではない。
自作自演の自主映画「憂国」(66年)では、割腹シーンが執拗に描かれた。226事件を題材に、親友を討伐する命令を受けた中尉(三島)が妻と心中するストーリーを、台詞なしのパントマイムで描かれる。豚の臓腑まで持ち込んで、撮影したというスキャンダラスな切腹シーンに、楽劇「トリスタンとイゾルデ」の〈愛と死〉の音楽が滔々と流れる。ワグナー音楽がもつ〝死への誘惑〟を、三島は身をもって実践したのだ。この短篇映画も長く公開できなかった。
「人斬り」(69年)は司馬遼太郎原作の幕末もの。三島は薩摩の人斬り新兵衛を演じた。監督の五社英雄は、「田中新兵衛が切腹するシーンがあるのだが、三島氏は切腹については仲々の権威でこっちが教わることばかりであった」(週刊サンケイ増刊『大殺陣』)と述懐している。実際の撮影の時、三島のあまりの迫力に、スタッフは圧倒されたという。この作品の一年後に、市ヶ谷での事件が起きるのだが、三島は映画「人斬り」で、その予行演習を行っていたのかもしれない。

