飲み友達のオノちゃんから連絡があった。


どうやら今月末の異動で東京に戻ることになりそうだという。




「せっかく皆と知り合ったのに…


 この前の連中との楽しい忘年会を、


 今年の暮れは楽しみにしてたんですが…」




「この前の連中」と言うのは、


9月19日に開いた「仲秋の名月を愛でる会」で知り合った連中のことだ。


ヒラメづくしの料理に舌鼓を打ちながら、


瀬戸内特有の穏やかな波間に上がってくる仲秋の名月を眺めようじゃないか。


潮の香りを嗅ぎ、潮騒を耳にしながら、


美味い地酒を酌み交わそうじゃないか…と、


風流な夜を過ごした連中たちのことである。




「忙しい人ばかりでしょうが、


 あの人達に声がけしてもらえませんかねぇ~


 皆さんと知り合えた御恩に感謝しながら、


 もう一度美味い酒を飲みたいんですよ…」




うれしい話だ。


人と人が知り合えて喜び、


人と人の別れに涙する。


こういう人間らしい感情が好きだ。




早速、あの時のメンバーに連絡をとる。


皆、オノちゃんの早い異動に驚きながらも、


全員喜んで参加してくれるという。




前々からオノちゃんには東京に戻る前に、


国東のはもを味わって貰いたいと思っていた。


京都で気取って食べるはも料理よりも、


大分の郷土料理として有名な中津のはも料理よりも、


この国東で食べるはもは美味いし、何といっても安いのだ。




そう言う訳で、謝恩会だとオノちゃんがこだわる送別会が開かれた。


総勢9名が、時間通りに集まる。


席に着くと、城下カレイと天然ヒラメの活き造りが、


デーンと並べられている。


そして、メイン料理のはものシャブシャブも始まる。




美味い…


生ビールで乾杯した後は、


ご当地の麦焼酎とっぱいが注がれる。


頃を見計らって、熱々の魚の煮つけが出てくる。


皿から頭と尾びれをはみ出すほどの大きめのオツムギが、


醤油と酒でさっと煮つけられて、これがまた美味い。




ソーナンダ・サクラギさんの軽妙なトークと、


ローカル・スターのエミちゃんの屈託ない笑い声につられて、


会場は笑いの渦に包まれたままだ。


酒宴はたけなわである。




そこへ、私の携帯に無粋な呼び出しメロディが…。


ダイちゃんからだ。




「Qとんさん


 はもシャブ…、確か今夜でしたよね。


 料理長が8時なるのに、


 まだ誰も来ないって…言ってるんですが。」




え゛~っ!?


確かに、ダイちゃんにも問い合わせた。




2年前までダイちゃんが経営していた店で、


はもシャブをしてもらえるかどうか、


前のように廉価でしてもらえるかどうか…




でもなかなか返答がないので、


ダイちゃんが社長を辞めたんだし、


無理も言えなくなったのかな~


だったらしつこく問い合わせるのは、ダイちゃんに迷惑かけるよな~


と、思い直したのは間違いない事実だ。


そして、旧知のセッちゃんに頼んで今夜の送別会となったのだから。




「えっ?


 はもシャブができるって、OKの承諾もらったっけ??」




「何言ってんですか…


 Qとんさんの問い合わせの後、


 その夜のうちに、すぐ電話しましたよ。


 そう言えば、寝惚けたような声だったんで、


 心配してたんですが…」




アイタ!

晩酌の後、うたた寝でもしてて、


寝惚けて電話をとったのだろうか。


まったく覚えていない。




ダブルブッキングだ。


いずれにしろ完全に私のミス。


一気に酔いが醒めるのがわかる。




刺身だけは自宅への土産用にパック詰めして、


今、はもシャブをやっている店に持ってきてもらうよう頼んだ。


(このこと自体、ドタキャンのお店には不愉快極まりないだろうが…)


そして、明朝早々、キャンセル代を持ってそのお店にお詫びに行くからと約束して…






私の目の席ですっかり赤ら顔になっていた隆ちゃん課長が、その様子を察した。






「ダブルブッキングですか?


 二次会で、そこに行って、はもシャブしますか…?」






そんなことは、絶対不可能である。




もう酒宴は、最終段階。


はもの旨味の出たスープで作られる雑炊を待つだけ。


他の連中のお腹も、余分なスペースなどあろうはずもない。


せっかくの酒宴の席が白けないよう、努めて明るく振る舞う。




客も来ずに待ちぼうけをくらったお店から土産用の刺身が届いたところで、


一本締めして一次会は閉じられた。




隆ちゃん課長が、大きな声で声がけする。




「Qとんさんがダブルブッキングしてたお店から届いた、


 お土産を持って帰ってください。


 そしてカンパお願いします…」


と。




ありがたい。


いや、その気持ちがである。


会の始まる前、今回の会計ビシッと努めますと言っていた、


お金に厳しい態度のソーナンダ・サクラギさんも、


気前よく浄財を提出している。


みんなの気持ちが本当に嬉しかった。


涙が出るほどに…


この人たちと親しくなったことを感謝していた。




当然のことだが、皆の気持だけをいただいて、


そのカンパ資金は全額、二次会の費用とさせてもらった。


そして、ダイちゃんに恥をかかせてしまった店には、


翌朝早々罰金を支払いに行った。




ま、いい勉強になった。


酔っぱらってる時に、人に無理なお願いするのは止めよう…