ゴルフ場の朝は活気がある。
エントランスにはすでに2台の車が停まっていて、
キャディさんがテキパキとゴルフクラブの入ったキャディパックを下ろしている。
ジャマにならぬようにその横に並ぶように車を止めた。
ちょっと年配の男性が挨拶をしながらトランクに駆け寄る。
やはり小走りで機敏な動作だ。
窓を開けて大声を出す。
「すみませ~ん。
シューズも一緒に下ろしてくださいっ!」
ちょっとした間があって返事があった。
「シューズしか、ありませんが…」
何とも言えない気まずさが漂う。
もうそのまま家に帰ってしまおうかと思った。
「貸クラブありますよね…」
「ええ」
と申し訳なさそうに頷いてくれるのが、また辛い。
フロントには3人の若い女性が待ち構えている。
明るく大きな声で挨拶をしてくれる。
「今日はクラブを忘れて、
ボールを投げて回るんやけど、
やっぱりチェックインせんといけん?」
生まれつきの性格である。
何か言わずにおれない。
自分の惨めな境遇にじっと耐えることができないのだ。
フロントの左端の壁に立って、
パソコンのディスプレイを眺めていた女性が、
肩を震わせて笑いを我慢している。
チェックインを終えて、
フロントの隣にある売店に向かう。
フロントでのやり取りが聞こえていたのか、
笑顔と言うより、
もうすでに笑っている女性が迎えてくれる。
「えーっと、
一番安いボールと手袋は…
どこに置いちょんの?」
ゴルフ場の売店に並ぶ商品は、
得てして高いものが多い。
貸クラブも5000円なのだ。
無駄な出費は極力抑えなければならない。
「メーカーとか性能とか、
そんなん全く気にしないから…」
返事がないので振り向くと、
手を口にあてて笑っているではないか。
お笑い芸人ではないが、
人が明るく笑っているのを見るのは嬉しい。
持って生まれた悲しい性分なのだ。
でも、明るい笑いは人間の間隔を狭めてくれるのは確かである。
慣れない貸クラブだからボールは余分に…
と彼女の勧めるままに、手袋とボールを8個も買った。
自分のクラブじゃなくたって、
同伴者やキャディさんと賑やかに楽しくプレーする分には、
何ら支障はない。
昼間のビールも美味かったし、
スコアもいつも通りの体たらくでも平気だ。
ホールアウトした後もスタート室で一言。
「使わなかったクラブが5本あるんだけど、
値引きはいくら?」
最後まで照れ隠しの一日であった。
昨日は高校の同窓ゴルフ大会。
上は80歳の大先輩から、
下は32歳の後輩まで、
170人ほどの参加者があった。
我々の卒業期は準優勝であった。
1期後輩がホールインワンを出すという花も添えられ、
(自分のクラブさえありさえすれば、
Qとんが出したかもしれなかったのに…)、
今年も盛大に事故もなく終了した。
準優勝に貢献することもなく、
クラブを忘れたドジなゴルファーは、
表彰パーティや同級生だけの二次会の席で、
大いに話のタネにされ、
日付変更線を越えるまで、
歌って踊って太鼓をたたいて飲んだのは、
ご想像の通りである。