カードが届いた。
クリスマスには早い…と思いながら開ける。
宿泊は、国東町の割烹旅館に予約していると言う。
大分に着いたら、まずは安国寺に参拝して、
その後、2日間で国東のお寺をなるべく多く参拝したい。
国東のお寺巡りに詳しい運転手がいるだろうか…
という問合せがあったのは、まだ暑い9月の中旬だった。
います、います、ドンピシャの適任者が!
と答えて、10月のとある日大分空港に出迎えた。
前日は、強い雨が降った。
その日も曇り時々雨と、天気予報はあまり良くない。
なのに…
天気予報の雨雲は、どこへやら。
最初の目的地の安国寺の茅葺きの山門は青空に映え、
素朴な仁王像が温かく迎えてくれた。
安国寺は太陽山安國禅寺が正式な名称。
太陽がサンサンと降りそそいで当たり前なんですよ…
旅先案内人の口もいつもに増して滑らかで、
一行を連れたジャンボタクシーの車内も賑わう。
国東半島の寺巡りコースに、普段は安国寺は入らない。
宇佐八幡神の化身、仁聞菩薩が開いたと言われる天台宗の寺院、
つまり六郷満山の寺巡りが主なコースである。
大分に着いて真っ先に安国寺に来たのは、
何か訳ありなのだろうと、思っていた。
しばらくして、その理由を教えてくれた。
一緒にやって来た6人は都立○○高校の同じ部活の仲間。
同級生で仲の良い友達が7人いたそうだが、
そのうちの一人は大分出身の男性と結婚し、
子供の出産の後すぐ亡くなったのだそうだ。
もう20年前のことだと言う。
住職に代わって寺の奥さんに、お墓に案内してもらう。
だが何か訳ありなのか、お墓の法名塔に親友の俗名が見当たらなかったそうだ。
亡き友の生み遺した子供の消息もつかめないらしい。
田舎のことである。
2、3の情報をもらううちに、亡き友の嫁ぎ先が凡そ分かったりする。
どうやら、彼女達の泊まる宿のすぐ近くの家だ。
でも、言わずもがなのことである。
翌日、割烹旅館に迎えに行くと、
亡き友の嫁ぎ先が、すぐ近くだったのよと教えてくれた。
朝、宿の周りを散歩していて、
住民の人と親しくなって会話するうちに分かったのだと言う。
「えっ、じゃあその嫁ぎ先にもお参りしますか?」
と、すら惚けて尋ねたが、
「色々事情がありそうだから…」
と、予定通りのお寺巡りに出発した。
友達が眠っている国東がこんな素晴らしい所だったとは…
また、新緑の5月頃か、紅葉の11月にも来てみたい…
宿の新鮮な海の幸料理も美味しかったし…
素朴な手作り味噌のだんご汁も美味しかった…
と、2日間の国東路の旅行にすっかり満足した様子で、
大分空港から帰路についた。
旅をしている人にとって、
その瞬間は人生での一コマになる。
日常とは違った空間での経験は、すべてが新鮮だ。
良い思い出も、悪い思い出も鮮烈な記憶となって残る。
親しい友達のグループで、
何か目的のある旅行などは特に思い出深いものになる。
国東や大分県や九州を訪れた人に、
精一杯のおもてなしの心で、
その旅行のお手伝いをして、
満足して帰られる姿を見送る…その喜び。
サービス業ならではの幸せな時である。
空港の前で撮った写真をメッセージカードにして送ってくれた。
お客様の気持ちが表れていて嬉しい。
何よりの宝物なのである。