昼頃から、南風が強くなる。
見知らぬ南国の情熱的な暖かい湿った香りを届けてくれる風だ。
気持ちいい…
目的もなく、どこか遠くまで行きたくなる。
懐かしいような情熱的な香りを含んだ風が、
そんな誘惑をしてくる。
そうだ!
前々からご挨拶に行かねば…と思っていた仕事を、
今日こそ片付けよう。
片道1時間。
大分のとある事務所までの、ちょっとしたドライブである。
誤解なきようどうやって説明しようか…
と、思い悩んでいた往路は気づかなかったが、
こちらの言い分を快く受け入れて了解してくれた帰り道は、
窓から入る風が一層心地いい。
こんなことなら、早く来ればよかった…
帰路は快適だ。
別大国道は、一般道路である。
制限速度は60km/Hなのに、
こんな気分でハンドルを握ると、
いつの間にかスピードが出ている。
右側の窓を、運転席も後部座席も全開にする。
南国の香りを含んで別府湾を渡った風が、
愛車の中に満ち溢れる。
メーター器に設置されている気温計は、24℃。
本当に気持ちいい…
車に流れる平原綾香の清らかな歌声が、
いっそう気分を高揚させる。
前を走る黒い車は、新しいモデルの車なのだろうか…
初めて見るリヤ・デザインが斬新で個性的だ。
日産ジューク…と、言う車なのだろうか。
信号待ちで、停車する。
ドライバーは、どうやら女性のようだ。
どんな人なのだろう…?
初めて見たデザインの車のせいか、
香り高い誘惑的な南風のせいか、
個性的で魅力的な車の持ち主の姿を想像させる。
自分の歳も、現実の立場も、つい忘れてしまわせる情熱的な南風。
20代の若者じゃない。
わざわざ追いかけて、隣のレーンで並んで、
ジュークのオーナードライバーの顔を確認しよう…
なんて思うほどのエネルギーは沸かない。
車の中に流れる、平原綾香の新作アルバムの「ブラームスの恋」が、
年甲斐もなくロマンチックな気持ちにさせているのだろうか。
風の香りが、やたら人恋しい。
アイツは、今、何をしているのだろう?
赤信号に引っかかった間に、
いつの間にか姿を消してしまった車は、
今日の春風のように、
頬を甘く撫でて通り過ぎてしまったのだった。