行きつけの散髪屋は、理容師4人が親子という家族経営である。


二代目のご主人と奥さんは、人もうらやむ仲の良さである。

そして、そのご夫婦の次女とその旦那が三代目である。


つい最近まで親子4人で仲良く仕事をしていたが、

老夫婦は常連の指名客相手の週2回だけの出勤で、

最近は若夫婦二人だけで店を切り盛りすることが多くなった。


今日は、大分に書類を届けた帰り、その散髪屋に立ち寄った。


若夫婦は、40歳をちょっと過ぎたくらいだと思う。

朝から晩まで四六時中、一緒にいることになる。

両親に似て、仲がいい。

子供を連れて、キャンプに行ったり、旅行に行ったり…

理想的な幸せ家族である。


「東北の地震と津波の被害、大変だね…

 それに、福島の原発も心配だし…」


最近は、どこに行っても、この話題から始まる。


そして…

自粛で、別府温泉まつりを中止したのは、いき過ぎだった…とか、

管総理の思いつき発言には、いい加減ウンザリだ…とか、

床屋での会話は、責任がない放言だから盛り上がる。


ところで、私の髪のカットをしてくれる若主人は、

以前、このブログの「髪型の今昔物語」 でも書いたが、

全国コンクールのカット部門で優勝した経験の持ち主である。


しかし、今日のハサミ使いは、ちょっと乱暴な気がしないでもない。

頭のてっぺんの髪が、

左手の人差し指と中指に挟まれては、

バサッと切り落とされる。


えっ?

ちょっと切り過ぎじゃないのか…?


残念ながら、メガネを外した鏡の中の世界は、

春霞にかかった山の景色よりはるかにぼんやりしていて、

どの程度カットされているのか定かではない。


体に巻きつけられたカットクロスの、

お腹の上を流れ落ちて、

両腿の間の毛の多さに、タジタジとして眺める…


と、突然の大声。


「いい加減にせんか!

 一々こっちの話に加わるな、

 って言ってるやろ!」


ビックリした。

隣のその隣の椅子で、別の客の襟足を剃っている、

彼の奥さんに向けられた言葉だった。



どうやら、私とご主人の話題に対して、

奥さんが襟足を剃られているお客さんに、

アーだコーだと話しかけていたようだ。


「何も世の中のことを知らんクセに…

 アンタが、見たとでも言うんかい?!」


向こうのお客さんと奥さんは、絶句している。


私も驚いた。

聖徳太子のように、

私の話と奥さんの話を同時に聞いていたことにもビックリしたが、

突然、お客の前で奥さんを罵倒する大声を出したことにだ。


場が白ける。

知らんぷりして、話題を替える。

「今日は温かいから、桜も一気に芽吹くよなぁ…」



きっと、それまでに二人の間に何かあったのだろう。

でも、喧嘩するほど仲が良いと言うし…

ま、時おりこんな光景があることの方が、自然なのだろう。



「どうして、そんなに短くしたん?

 大きな顔が一段と大きく見えるわぁ…」


と、帰宅早々人の顔をまじまじと見て感想を言う妻に、

何の説明も反論もしない夫は、

散髪屋の夫婦喧嘩が、何となく懐かしく感じる年頃なのである。