セカンドバッグを愛用している。
取っ手のついた皮仕様の黒い鞄だ。
趣味が悪い、とよく非難される。
怖そうなお兄さんや、
成り金のオヤジが持っていそうだと言うのだ。
最近すっかり物覚えの悪くなった海馬に代わって、
無くてはならない手帳を始めとして、
名刺入れ、筆記具、ヘアクリーム、爪切り、毛抜き、目薬、櫛さらには頓服のサンリズムやビタミン剤…
コンビニでパンツさえ買えば、泊まりがけの旅行ができるほどの生活用品が入っている。
昨年末、某デパートのカバン売り場に勤める、
飲み友達からメールが入った。
「Qとんさん好みの、
新しいデザインのセカンドバッグが入ったわよ」
ほとんど衝動買いであった。
が、そのまましまっていた。
それまで使っていたバッグは、
古くなっていたが使い勝手がいい。
なかなか新しいバッグの登場のチャンスがなかったのである。
今日は、朝から好天に恵まれた。
春の陽気を感じる。
気分も爽やかである。
よっしゃ~
そんな浮き浮きした気持ちで、
古いパックの品々を新しいバッグに移した。
初卸しである。
新しいバッグは、気持ちいい。
今日は、11時の展示会から、
夜の同級生との飲み会まで、
行事が目白押しである。
新しいバッグをぶら下げて、
どれもスイスイと、うまく事が運びそうな予感がする。
展示会場の地下駐車場に車を停める。
エレベーターホールにあるトイレで、小用を足す。
便器の上に設えた棚に置いたカバンが、
汚れないかと気が気でない。
手を洗って、
ポケットにハンカチを仕舞いながら、
エレベーターホールに出ようとしたところで…
バッグが宙を舞う。
そのままもんどりうって、鈍い音を立てて床に転がった。
卸して、まだ1時間ちょっとしかたたない新品のバッグが…
である。
どうした弾みか、主人の意思を無視するように、
取っ手を握っていた指から、
滑り離れてしまったのである。
慌てて拾い上げ、バッグの角を確認する。
良かった…
角は傷んでない。
周りの縫い合わさった所にも傷みはない。
底も、横も…
ん?!
バックの正面に…
取っ手の下あたりの、一番目立つところに…
何やら不規則な線が…
それも、二本もある。
どうやら、落とすまいと握りしめた時の、爪の痕のようである。
猫じゃないんだから…
昼からの会議中、
卸し立ての、
まだ新しいバッグに不似合いな、
不規則な爪の軌跡を、
何度も何度も撫でては…
獲物を逃すまいと爪を立てる動物的遺伝子が、
この体に潜んでいたことを、
腹立たしく思っているのである。

