もう、半年くらい前からか。

親指の付け根が痛む。


先日、事務所にメンテナンスが入って、ワックスがけの日。

とりたてて何もすることがなかったので、

近くの整形外科医院で、痛みの原因を診てもらうことにした。


ここの院長とその夫人とは、入魂の間柄である。

X線撮影室の前で待っていると、院長夫人が通りかかって…

「あらッ、Qとんさん、今日はまたドコが…?」

なんて、聞かれる。


そう言えば…

もう何年も前に、酔っ払って自転車に乗っていて、

田んぼの中に転倒してヒザを縫う怪我した時、

深夜だというのに、ご夫婦そろってテキパキ処置してくれたことがある。


あの時以外は、アソコが痛い、ココが痛い…と、度々診察に来ても、

「まあ歳をとれば、皆さん大なり小なりアチコチ痛くなりますから…」

といういつも通りの診断だからな…

と、もうすでに診察前から、診断結果が決まっているような気になる。


整形外科は、ごった返していた。

近所の年寄りのサロンみたいなものである。

しばらく待った後、診察室に呼ばれる。


「えーっと、どうあります?」

院長は、いつも穏やかである。

ニコニコと微笑を絶やさず、じっと気長に患者の訴えを聞いてくれる。


院長が、患者の目や患部を見つめている時は、

重症か緊急な時である。

X線写真をぼーっと眺めながら症状を尋ねる時は、

大した病状じゃない。


せっかく午前中の時間を潰して、受診しているのだ。

熱心に、半年にわたる指の付け根の痛みを訴える。


「ここが、深夜寝ている時でも、急にキリキリと…」


患者は、掌の関節が、飛び出しているのを見せたりする。

さらに、両手を合わせて、具体的な例を挙げて、理解して貰おうと努める。


「ほらっ、こうやると…

 関節の節と節が当たって、とてつもなく痛いんです。

 だから、神社で拍手を打つ時も、綺麗に両手を合わせられず、

 まるで、カラオケのお義理の手拍子みたいなみたいにしか…」


痛みを理解してもらおうとする患者は、必死で健気である。

大げさなジェスチャーを交えて、実演する。


それまで、興味なかったような院長の目が輝く。

患者の目を見つめながら、言った。


「そぉーか。

 イヤ、いつも学会でね、

 このての痛みは実生活にはあんまり影響がなかろう…と。

 そうか、神社の拍手の時は・・・

 ああ、困りますねぇ~」


院長自ら、両手を合わせて、妙に感心している…

能弁な患者は、自ら予想していた診断結果を口走る。


「先生、やっぱし…

 年齢による痛みなんでしょうね。

 いつもの老化性の関節炎…っすか?

 それとも、腱鞘炎?

 いや、リウマチとかの初期症状でなければ良いんです。」


関節が固まれば、痛みがなくなる。

関節が多少変形するけれど、それは仕方がない。

そんなような事を、アドバイスしてくれたような気もする。


ほとんど自作自演、いや自診自断。


診察室を出る時、先生にお礼の気持ちを込めて…

「さっき、奥さんとも話したんですけど、

 近々またウチでやりましょう…」

と、痛いはずの親指と、人差し指でUの字を作って、口元に運んだ。


いったい、何の目的で行ったんだか…

このブログ記事を書くに当たって、

病名すら聞いていなかったことに気づいた。