政府が、「日本経済は穏やかなデフレ状況にある」と発表した。

あいまいな表現である。

うっかり「穏やか」という表現に騙されて、春の陽ざしを思い浮かべてしまいそうである。


「モノの値段が下がってきて、売り上げが減り、給料は減るし、企業の投資意欲も湧かない、晩秋のような肌寒い経済状況」

とでも分かりやすく発表したらいいのに…

と、皮肉っぽく思ってしまう。


仕事の取引先の販売店主会がある。

かつては、月々5万円ずつの旅行積み立てと、さらに取引先が援助をして、年一回の豪華旅行をしていた。

先代の叔父の時代は、ヨーロッパ、北欧3カ国、カナダ・アラスカ、南米遺跡などへ…

豪華ホテルに泊まって、三ツ星レストランで食事をする大名旅行をしていた。

もう10年ほど前までのことである。


この販売店主会が、2年ぶり旅行することになった。

貯まった旅行積み立ては、以前の5分の1に満たない。

しかも、取引先からの援助金は、びた一文ない中での旅行である。


行き先と旅行日程について、希望をとった…

1泊2日の旅行に限る。

もちろん、国内旅行。

ありふれた旅行じゃダメ。


合理化のために、従業員の数をギリギリに減らしている販売店ばかりである。

店主自らが、大きな労働力となっているので、長くは店を空けられるはずもない。

他店間の競争激化で、利幅も下がるばかり…


景気を調べるのに、難しい指数は必要ないのだ。


小さな販売店のオヤジたちが、どこに旅行に行くのか。

豪華海外旅行から、1泊2日の国内旅行になった…

これだけで、世の零細企業を取りまく経済環境がいかに厳しいか、簡単にわかるというものじゃないか。



そういう訳である。

明日から、もうすでに紅葉の時季を過ぎた京都と大阪に、慌ただしい1泊2日の旅行に出かける。


保津川下りは、夜も眠れず充血した眼に紅葉の鮮やかさを、息苦しい肺に新鮮な空気を送り込むためだし…

なんば花月での新喜劇は、すっかり笑いを忘れて、眉間にシワの寄った顔に、微笑みを取り戻すためだし…

祇園で芸姑さん、舞妓さんを呼んだ華やかな宴席は、身も心も疲れ果てて頑張っている零細企業経営者たちへの、ほんの細やかな「ごほうび」なのである。


赤字財政の中の行政の合理化や、それにともなう大企業の経費節減は避けては通れないのかもしれない。
しかし、何もかも無駄だと切り捨てることは良いことなのか。

無駄に思えるようなものにこそ、人の情けというか、心の温かみが生まれてくるものなのだ。

時間と金銭の浪費の最たるものである旅行は、無駄の塊のようなものかもしれない。


でも、一見無駄に思える旅行にこそ、疲れきった現代人の心に余裕を与え、明日への夢と希望を抱かせるエネルギーとなる…

と、フーテンの寅さんも言っていたような気がする。



「この厳しい時期に、たかだか1泊2日の旅行に、そんなにお金をかけるの?」


訝っている家内に、しかるべく旅行の効用を説明する。

そして、こそこそじゃなく堂々と、

晩秋の京都と大阪を…

芸姑と舞妓の華麗な世界を…

大いに堪能し、大いに飲んでこよう…っと。