もう15年以上、親しくさせていただいている方がいる。

眼鏡屋のご隠居である。

八っつぁん、クマさんに出てくる、ご隠居のイメージには程遠い。


自称、永遠の裕次郎。


彼は、ロマンチストだ。

人好きの寂しがり屋である。

よく自分の友人を、別の友人に引き合わせる。

アイツとアイツは馬が合うだろうが、コイツとは合わんだろう…などという、配慮も忘れない。


そうやって、彼を通じて知り合った人が、彼の周りにたくさんいる。

時おり、ご隠居の号令によって、そんな人たちが集まる。

日中ゴルフをして、その夜は賑やかな酒宴を開いて…

またいっそう親密になっていくのだ。

だからなのだろうか。

このご隠居の周りには、気の置けない仲間が集まってくる。


その会の一人が、今月いっぱいで転勤することになった。

大分支社に、足かけ8年いたのだそうだ。

49歳の若さで、福岡の本社営業局長への大抜擢なのだそうである。


送別ゴルフコンペをして、盛大な送別会を開催することになった。

「Qとん、オマエ幹事をやれ!」

ご隠居の一声で、幹事が決まり、日程と場所が決まっていく…


先日、秋晴れの爽やかな日。

その送別ゴルフが、別府のゴルフ場で開催された。

そして、夜は老舗ホテルで送別会だ。


そのホテル自慢の、屋上にしつらえた露天風呂に浸かる。

転勤の決まった送別会の主賓と二人っきり。

夕日に照らし出された大分の市街地と高崎山と別府湾が、まるで箱庭のようだ。

手足を伸ばして、ゆったりすると開放的な気持ちになる。


 内示があってすぐ、ウチのカミさんに、

 「転勤することなった…」

 って、電話したんですよぉ~。 そうしたら、

 「どこへ?」 って、言うもんですからね、

 「本社…」と言うと、

 「えっ、ウソでしょ!

 どこに住む…家に帰ってくるの?」

 なんて言うんですからね。


 カミさんに言われるまでもなく、

 泣きたいのはこっちの方っすよぉ~


 再来年に受験控えた高2の娘がいて、

 今までだって、時々家に帰っても、

 一晩だけ泊ったら、すぐ大分に戻って

 いたんですもん。

 なんか、家ん中でオレのいる場所ないんだもん。

 タバコだって、真冬もベランダですっからね。

 

 8年近く単身生活していると、

 今さら家で家族3人そろって暮らせるかどうか…


彼は、やり手の営業畑育ちである。

毎晩のように、営業を兼ねてネオン街に繰り出していた。

酔っ払って午前様で帰って、奥さまやお嬢さまから嫌な顔をされまいか…


いやもっと可哀そうなのは、同じように東京に家族を残して、単身大分でご活躍中の別会社の常務の方である。

歓楽街で、いつも二人一緒仲良く飲んでいる姿を垣間見ることが多かった。

この送別会でも、最後の最後まで仲良く二人一緒であった。


恋人に捨てられたような悲哀を、感じているのだろうか…


栄転とはいえ、悲喜交々の風景である。


そこで、人の情愛、感情に敏感なご隠居が提案する。


「Qとん、次回は博多で歓迎会やろう!

 古賀か芥屋でゴルフやって、中州でぱぁ~っと、歓迎会。

 常務、一緒に中洲で歓迎会やりましょ~~~」


寂しがり屋。

人間大好き人間。

こういう人たちに囲まれていると、本当に人間って幸せだと思うのである。