先日の皮膚科の待合室での情けない話。


受付を済ませて、待合室にあった週刊文春を広げて、目を通しているところだった。

一人の綺麗な若い女性が受付をすませて、私の顔を覗くように近づいて来た。


「まあ、Qとんさん、こんなに遠いところまで来るんですか?」


ん?

どこか見憶えるある人…誰だっけ???


そう言えば2年ほど前のブログにも書いたことがある。

確実に、「アルツの症状、徘爺 」へ、まっしぐらの昨今である。


「で、どこか悪いんですか…?」

「いや、ナニ… ほら

 日頃の素行の悪さからか、変な湿疹が出ちゃったりしましてね…」


彼女は、上品に手を口に当てて笑い、しかも方言ではなく会話が弾む。

っちゅうことは、同じ地域の住人じゃないということか。


こんな綺麗な人が、誰だったか思い出せないなんて…

でも、慌てる必要はない。

もう一通りの挨拶を交わしたし、彼女も雑誌を読み始めたじゃないか。

いずれ彼女の名前も呼ばれるだろう。

その時思い出しさえすりゃ、それで十分間に合う。


手元の週刊文春のページは、確実にめくられていく。

が、記事の内容なんて、一考に頭に残らない。


え~っと、最初に就職した銀行の関係者だったっけな…

それとも、今の仕事の取引先関係…

いやいや、PTA役員で知り合った方だったか…

もしや、学校の先生だったっけ…

いやまてよ!

こんな綺麗な人で思い出さないって言うのは、ご主人とかなり親しい知り合いで、その奥さまちゅうことか?

それとも、例によってどこぞやの懇親会場で、酔っぱらってからかった、どこぞやのコンパニオンの女性だったっけ…


この記憶が蘇らない苦痛を理解できる人は、今読んでいる方の中にもいるのだろうか。


私の前の席に座っている彼女が、不意に振り返って何か会話を仕掛けてこなければいいが…

と、脂汗が出るような思いで、早く診察が終わることを願っていた。


結局、「バラ色湿疹」の診断が出て、会計が終わるまで、彼女は振り向くことはなかった。

しかも、彼女は診察室に呼ばれたりすることもなかった。

とても落ち着いて静かに雑誌に目を通していた。


このまま挨拶もせず帰ってしまうのは、彼女に失礼な気がしていたのも事実である。


差し障りのない挨拶だけでもしておかなければ…と、考えた。


「じゃあ、お先に失礼します…

 あっ、くれぐれもご主人にもよろしくお伝えくださいね…」


彼女は、受験前の中学校くらいの子どもを持つ母親の風格があった。

私と懇意であるはずのご主人と、当然幸せな家庭生活を送っているような佇まいがあったのだ。


整った顔立ちの彼女は、ちょっと眉間にしわを寄せたような顔になった。

「あらっ、私のこと、どなたかと間違ってらっしゃいません?…

 私、まだ結婚していませんし、…」


彼女の言葉を遮って、何と言い繕って、その場を離れたのだったか…

穴があったら入りたい、そんな気持ちだったのは間違いない。


その後も、喉に骨が引っ掛かって取れないようなもどかしさの日が続いた。


そして、数日経った、昨日。


やっと、思い出したのである。

大分県○○販売協同組合の事務員。

今春、その協同組合の常任理事になった。

つい先月、彼女たち事務員全員も交えて、懇親会があったばかりである。


次回の常任理事会までに、事務局を訪ねてお詫びしておこう…


理事長や他の役員に、すっかりアルツの症状が進んでいることだけでなく、皮膚科で怪しげな診察をしていたことまで暴露されてしまったら、たまったものではないのである。