由布院温泉。
由布岳を眺める風光明媚な湯布院盆地にある。
由布院には、時の流れを忘れさせてしまいそうな静かで安らぐ宿がある。
金鱗湖のほとり、亀の井別荘もその一つである。
もう30年ほど前だろうか…
この亀の井別荘の一角に、「天井桟敷」という喫茶室ができた。
寺山修司の主催した天井桟敷というアングラ劇団から命名したのかどうかは、定かでない。
が、グレオリオ聖歌の荘厳な調べ流れる中で飲むコーヒーは、昔から格調の高い香り…だと思う。
今から、30年前。
由布院を訪れる観光客がまだまばらな頃。
愛車スカイラインを飛ばして金鱗湖のほとりまでやってきては、天井桟敷に立ち寄ったものだ。
急な階段を昇り、奥まった天井裏のような中二階の席が、定席だった。
そこにつるべでコーヒーを運んでもらうと、ちょっと限られた常連のような気がして、鼻が高かったものだ。
今年の紅葉は、色づきが悪いと聞く。
久々に秋の由布院を訪れた。
金鱗湖の周辺、亀の井別荘の敷地内の紅葉は、今年も見事であった。
駐車場は、車で溢れかえっている。
駐車場から、天井桟敷に続く渡り橋の上には、紅葉をバックに写真を撮る観光客の歓声が響く。
その渡り橋をわたる二人の熟年カップル。
長年連れ添った夫婦なのだろうか…
後ろから見るだけで、仲の良さそうな雰囲気が伝わってくる。
女「キレイねぇ~」
男「本当だな。
いやあ、ここの天井桟敷。よく来たもんだよ…」
女「誰とよ?」
男「……」
女「ねぇ、誰と来たのよ?」
男は、キレイなものを見ると、つい油断をして素直な心をさらけ出してしまう。
…のだと思う。