親しくしているヤツが入院した。
彼の家は、川沿いに建っている。
川原に巣食っているのか、毎夜イタチが現れて、天井裏を走り回るらしい。
侵入の穴を見つけて、塞ごうと考えたらしい。
彼の家と川を仕切っている堤防に上がって、屋根を見上げた拍子に、誤って川原に転落したという。
右足首を骨折。
全治1ヶ月と診断された。
本日、彼を見舞うことにした…
友人の見舞いの時には、見舞金とは別に「洒落た見舞いの品」を持って行く。
退屈しているはずの彼らを、勇気づけるための話のタネだ。
糖尿病で入院して、厳しい食事制限をしている友には、高級赤ワイン。
まったく食欲をなくしている友には、大トロと関サバの握り寿司…
といった具合だ。
えーと、怪我で入院している彼には何がいいか…?
ギプスができるまでの数日間は、足を固定しているだけで動くことも儘なるまい。
毎日、退屈で仕方がないはず。
…そうだ、本にしよう!
わが町の本屋は、田舎町の割には立派である。
その本屋まで車で行く2、3分ほどの間に、どんな本にするかを決める。
いくら退屈で時間があるからといって、新刊や文学書を好んで読むヤツではない。
アダルト雑誌。
いわゆるエロ漫画とエロ小説を買うことにした。
日曜日の夕方のことである。
田舎の、他に文化的な施設が少ない地域である。
日曜日なので、店内は結構賑わっていた。
コーナーを分類する看板を見上げながら、「コミック」の所に向かう…
あった。
「成人向け」と書かれた棚に、多くのカラフルな雑誌が並べられている。
「こんばんは」
不意に、後ろから声をかけられる。
知人が家族連れで、挨拶してきた。
子ども達にせがまれて、コミック誌を買いに来ているんだろうか…
「ほら、○○が入院したのを知っている?
足首骨折したって…
退屈していると思って…
何か、雑誌でもと… 」
こんな時に、目的をこと細かにいう必要などない。
明らかに狼狽しているのが、自分でも分かる。
他の雑誌を探すような振りをして、そそくさと本屋を後にした。
病院の近くの、コンビニに入りなおす。
見舞い品の内容を変更する気などは、毛頭ない。
我ながら「あっぱれ」である。
またもや「成人向雑誌コーナー」という仕切りが、異様に目につく。
いつもは、これほど意識したことがないのに…
中身はもちろん表紙も確かめず、帯封の付いたままの雑誌を4冊手にするとレジに向かった。
「これ、見舞いの品なんだけど…
ほら、入院してると、退屈でしょ。
それらしく、包装なんてできないよね?」
ここでも、自分が読むために買った物でないことを、ことさら強調する。
意外と、小心者なのである。
包装は無理だけれど、紙製の手提げ袋に入れてくれた。
その「見舞い品」を持って、病院にたどり着いた。
日曜日の夕方のことである。
奥様と小学生の子ども2人がパパの見舞いの先客としていた。
菓子折りか、はたまた果物か…
子ども達の視線が、手提げ袋に注がれる。
透明の、コンビニのビニール袋でなくて、良かった…
わざと無視して、足元に紙袋を置き、勧められたパイプイスに腰掛ける。
怪我に至った状況を彼が始めると、家族が帰った。
ほっとして、彼に見舞金と「見舞いの品」を渡す。
そして、本屋での知人の家族との遭遇の話や、コンビニでの包装の話…をする。
退屈三昧の彼にとっては、愉快な見舞い話になったに違いない。
そういう意味では、退屈しのぎの話のタネとしては、この「見舞いの品」は役立ったことになる。
家に帰って、怪我の様子を知りたがる家内に、この見舞い品のことを話す。
バカなことは辞めて…
自分の立場も良く考えないと!
そうであった。
この小心者は、有害図書から児童、生徒を率先して守らねばならない立場にあったのだった。