その昔、まだ若かりし頃、初めての見知らぬスナックに入るのが好きだった。
ボッタクリじゃないだろうか。
恐い人がやっている店じゃないだろうか。
というスリルも楽しめたりする。
若さゆえの、馬鹿げた趣味だったのだろう。
でも、初めての店でも、入っただけで恐い店かどうかは、すぐ分かったものだ。
そしてちょっとした会話をするだけで、そのお店が楽しい所かどうか、たいてい判別できた。
そして、初めてのお店に入って、こう言うのである。
「キープできますか?」
ほとんどのお店では、ママかリーダー格の女性が近寄って来て尋ねられる。
「わぁ、ありがとうございます。 どなたの紹介? キープは何を?」
そこで、厳かに言う。
「え~っと、スーパードライ!」
この時、ムッとした顔を露骨にしたお店は、それでもう終わりである。
もって来たビールを大事に飲んで、お勘定をするだけだ。
そんな人を食ったようなキープの注文に、今までで一番感激したのは、スーパードライと一緒に、マジックを一緒に持って来てくれたSママ。
キープのための名前を、そのビール瓶のラベルに書かされた。
そして、丁寧に尋ねられた。
「空になったけど、もう一本キープを入れていいかしら?
同じスーパードライでいい?」
完全に一本取られたのだった。
当然、2本目は、キープのためのサントリー山崎を注文したことが懐かしく思い出される。
その後、ちょくちょく通った店である。
Sママは嫁いで新潟に行ったけど、持ち前の回転の早い頭と人懐っこい笑顔で、幸せな楽しい家庭を作っていることだろう。
昨夜は、ひょんなことから初めての店に一人で立ち寄った。
総会の後、懇親会その次の二次会そして…、つまり三次会のお店であった。
なかなかいい感じの店である。
半弧のカウンターの中央にママが座っている。
他には、まだ誰も客がいなかった。
「やぁ、お久しぶり。ママ、覚えている?」
二次会の盛り上がりが、テンションの高い挨拶となる。
キョトンとしているママに言った。
「あれっ、覚えていないんじゃないの?
…
…
ウソ、ウソ。実は、初めての客でございます。
早速、キープしたいんだけれど…」
すると、申し訳なさそうにママが応える。
「お店のキープじゃダメですか? 実は、今月いっぱいで閉めるんです。」
え~、ショック!!
なかなか雰囲気のいい店だった。
カウンターは7人掛け、入り口のドアの左奥にはボックス席もあった。
床に畳張りの、落ち着いた雰囲気。
ここなら、一人でママとゆっくり人生が語れるし、高校時代の同級生グループで大騒ぎしても良さそうな家庭的な感じ。
早く知っていたら…
何度も来ていたのにと思わせる店だった。
100年に一度と言われる未曾有の大不況のせいなのだろうか。
そんなお店のイメージダウンに繋がる話を、
いとも素直に披露するママに好感が持てる。
閉店まであと10日だというのに、キープをした。
しかも、別に赤ワインのフルボトルも注文する…
こういう実直な人には、弱い。
「大丈夫、10日で飲み空ければいいんでしょ!」
三次会の客は、もうすでにテンションが高いのである。
今月このお店のある大分市内で飲む予定は、今のところ入っていない。
いったいどこまで減るだろうか?
はたまた、飲み空けることはできるのだろうか?
乞う、ご期待!!