亜昏迷になる前の嘔気、食思不振と点滴 | kyupinの日記 気が向けば更新

亜昏迷になる前の嘔気、食思不振と点滴

本来、亜昏迷という病態は疾患特異性がなく、内因性疾患や器質性疾患にかかわらず生じうる。しかし、亜昏迷とか昏迷と言うと統合失調症の経過中に病態として表現されることが多い。

 

ある患者さんは昏迷になりつつある時期に、いつも嘔気と食欲不振を訴えていた。しかしまだ体は動くので、通院はなんとかできるのである。しかし、もう少し進行すると亜昏迷~昏迷に至り、放火などの事件を起こすのであった。

 

このような病態に対し点滴することは、この患者さんに限らず治療的である。また、食事がほとんど摂れないので点滴で補液するのは合理的でもある。この患者さんでは、平凡に点滴を続けていることで次第に回復することが多かった。

 

と言うことは、点滴をするかしないかでは大違いである。

 

これらの病態に点滴が有効なのは、悪性症候群には点滴が有効なことと似ている。

 

基本的にカタトニア的病態には点滴は良いのである。実際、悪性症候群は「悪性カタトニア」とも言われている。

 

この2つの病態が近縁にあると思う理由の1つは、この亜昏迷~昏迷の病態時に高力価の抗精神病薬を処方すると、とりわけ筋注や静注などでは、速やかに悪性症候群に移行しうるからである。

 

タイトルに挙げた「亜昏迷になる前の嘔気、食思不振」は、悪性症候群のような極端な病態と同じスペクトラム上に位置するように見える。

 

と言うことは、亜昏迷になりかけの病態は、患者さんの診断や体調にもよるが、薬物の何を選択するか慎重でなければならない。昏迷を治療するために、力価の高い抗精神病薬(セレネース、リスパダールなど)の投与は実はリスキーなこともある。

 

うつ病性の昏迷の場合、セレネースやリスパダールは出番ではないので、処方されないことが多い。躁うつ病では亜昏迷時に抗うつ剤を投与すると、躁うつ混合状態という自殺もありうる複雑で危険な病態を惹起することがある。

 

そのようなことから、うつ病性ないし躁うつ病の亜昏迷の経過中にジプレキサが選択されることがあるのは、ジプレキサは鎮静的な薬物であることと、同時にうつも改善する要素があり、双方向に効果が期待できるからだと思う。

 

また、ジプレキサの場合、うつ病性で食事が摂れない状況では、食思を上げる作用を持つことは重要だと思う。

 

ジプレキサがうつ病性ないし躁うつ病性の亜昏迷ないし昏迷に対し、服薬させたために悪性症候群に移行させるかどうかだが、一定のリスクがある。したがって、一応の注意が必要だと思う。

 

ある病態で、いかなる向精神薬を使うかだが、常に患者さんの反応を診て決める方が良い。診断と治療には確からしい処方はあるが、個人差があるので絶対ではないからである。

 

亜昏迷~昏迷が非定型精神病に由来する場合、リーマスが良いことがある。これは亜昏迷の場面だけ診た状況だと、生活歴や病歴がわからないので診断が難しいが、時間が経つと次第にいろいろな情報が集まるので、リーマスが良いと気づくことがある。

 

リーマスは悪性症候群のリスクは低いかと言うと、決してそうではなく一定のリスクがある。

 

結局、精神病の亜昏迷~昏迷は、悪性症候群の先駆症状に近いくらいの覚悟で治療を進めれば、迷ったときに正しい判断がしやすくなると思う。