最近、精神科で外国人の受診や入院が増えていること | kyupinの日記 気が向けば更新

最近、精神科で外国人の受診や入院が増えていること

僕は長く警察署留置者の診察をしているが、最近、外国人留置者の初診が増えてきている。また、以前は中国人が多かったが、最近は東南アジアの人も増えて来た印象。しかし統計上は外国人の犯罪が増えているわけではないらしい。

 

日本人の警察署留置者はかつて覚醒剤使用歴があり、不眠やイライラ感を訴える人が典型的である。そのような人は逮捕前に眠剤の処方を受けている人が多いが、不思議と精神科で処方を受けていない。彼らは内科で眠剤を貰っている。

 

外国人の警察署留置者は覚醒剤関係は頻度的にはあまりいない。彼らはしばしば長期に日本に滞在しており、日本語がわかるのでコミュニケーションには困らないことが多い。しかし稀に来日して間もない人が受診することもある。彼らは日本語も英語もわからない。

 

このような際、タブレットのグーグル翻訳を利用する。アプリは発声もしてくれるが、僕は翻訳文章を見せて利用している。警察官に同伴される留置者で翻訳アプリを使わないと困るような人はほとんどいない。

 

警察署留置者ではない一般の外国人の初診は、最近、東南アジアから来た技能実習生に増えている印象。彼らは、たいてい非常に若くで来日しており、これから内因性疾患が発症しかねない年代である。

 

また、東南アジアでも首都ではなく、かなり田舎から技能実習生として来日する人が多く見受けられる。初診時から、統合失調症(F20)ないし、急性一過性精神病性障害(F23)が疑わしい精神病状態患者さんは、すぐに入院も必要なほど原始的な精神症状が診られる。原始的という症状は、かつての教科書に記載されたシュナイダーの1級症状そのままである。

 

 

上記リンクから抜粋。

 

クルト・シュナイダーの定義した1級症状
1.思考化声
2.批判的幻聴
3.ダイアログ(複数人の対話)形式の幻聴
4.身体への悪意ある行為や影響
5.思考伝播
6.思考奪取
7.作為体験
8.関連妄想・妄想知覚

 

これほど重い症状がある人は、セレネースかジプレキサを筋注したいところだが、現代風にはジプレキサの筋注が良さそうである。ただし連れてきた人が、重くても是非連れて帰りたいということもあり、事故が相当怖いが、ジプレキサと眠剤を処方し、明日も注射に来るように指示する。

 

東南アジアの技能実習生の入院形態的な問題は、医療保護入院の際に、東南アジアのしかもど田舎に住む家族の了解を得ないといけない法律上のルールだと思う。家族がいる以上、市長代理ができない。言葉もわからないような国の人にどのように説明するの?と言いたい。金銭的な問題もあり、家族が日本に手続きだけで来ることなどできないのに。

 

なお、医療保護入院の書類は10日以内に提出義務があるが、これは営業日ベースではないため、例えば2023年12月28日医療保護入院させた場合、正月休みの期間は決して延長されない。年明けには速攻で書き上げて提出しなければならないという不自由さである。この10日ルールは、このような外国人の事例は配慮してくれるらしい。

 

上記に挙げた原始的な精神症状だが、ジプレキサ筋注などの抗精神病薬が日本人に比べ恐ろしいほど劇的に効く。元々、このタイプの精神病は抗精神病薬の有効性が高い病型ではある。

 

よく東南アジアの人が来日して、正露丸などのような古典的な薬を買って帰るなどと聴くが、アフリカや東南アジアの人はこのレベルの薬でも十分に効くからだと思う。ひょっとしたら、日常、化学物質に触れる機会が、日本人に比べかなり少ないことも関係しているのかもしれない。

 

言い換えると、日本人は住居や日頃使うもの(化粧品やシャンプーなど)や食品などに混入している化学物質に日々触れているため、なんらかの脳への悪影響、例えば過敏性やその逆があるのかもしれない。

 

いずれにせよ、このような原始的な精神病状態を診たら、ジプレキサ、リスパダール、セレネースのいずれかで治療を始めるべきだと思う。この3つが良くない場合、代替としてシクレストやトロペロンでも良さそうである。コントミンやレボトミンは効果と副作用のバランスが悪い。

 

このような病態に、中途半端にラツーダ、ロナセン、エビリファイなどで始めると序盤に時間がかかりすぎ、急速に軽快しない懸念がある。この3剤は鎮静作用が弱過ぎることも難点である。エビリファイの最高量から始めるのはギリギリ良いかもしれないが、論文を書くわけではないので、あまり推奨できない。

 

上で、グーグル翻訳を使うと記載したが、さっぱり見慣れない文章になる。現在、技能実習生で最も多い外国人はベトナム人らしい。東南アジアでも物価が高い国は、円安や日本の物価や人件費が今は低いことから、出稼ぎに来る価値が低くなっていると思う。

 

 

これはグーグル翻訳のベトナム語変換である。この文章は、少しアルファベットっぽい文字もある。しかしミャンマー語はもっとアルファベットからかけ離れる。ミャンマーとは旧ビルマである。

 

 

 

興味深いと思うのは、ミャンマー語ではあまり単語の空欄がないことである。書き順すらわからない。インドネシア語だと、

 

 

このように欧米の文章っぽい。

 

近年、技能実習生の統合失調症などで医療保護入院の処遇にせねばならない際に、家族との連絡が難しいなど対応に困る事例が増えているらしい。

 

精神症状が良くなったミャンマーの患者さんに、なぜ技能実習生として来日したのか聴いたことがあった。彼らの母国の月収は4~5万だが、日本では月収21万になるらしい。これは約4倍なので、長期間滞在して働けば、彼らにとって結構な金額になるし、寮に住んでいるので、毎月半額送金しても、地味にしておれば生活できないほど困窮はしない。

 

近年、旅行をしていて思うが、旅館やホテルに特に東南アジアのスタッフが増えている。それは外国人観光客の対応のために働いてる人もいないわけではないが、チェックアウト後の客室の掃除など単純労働者も多い。医療関係では看護助手として東南アジアの人を雇うことも増えている。

 

将来的に精神科でこのような比較的若い世代の精神病の治療をする機会が増えていくと思う。しかし制度が、それに追いついていないと言ったところである。