少量ラミクタールはエネルギーがいらない | kyupinの日記 気が向けば更新

少量ラミクタールはエネルギーがいらない

今日は犯罪被害者の治療の話。

 

精神科では犯罪を契機にメンタルを悪くして初診する人たちが一部にいる。そう多くはないが数年単位では時々ある。

 

ここで言う犯罪だが、社内でのパワハラとかセクハラは含まない。パワハラなども広い意味の犯罪に類するものかもしれないが、被害者が自殺するとかでない場合、事件化しないことが大半である。パワハラなどによりメンタルをやられて精神科受診する人々についてはいつかアップしたい。

 

この記事の犯罪被害者は新聞やテレビで報道されるような犯罪に巻き込まれた被害者のことを言っている。

 

このような人は何らかの精神変調を来しているが、特殊な病態でアップとダウンが混在していることが多い。

 

基本、うつだが、その逆も混在するような病態である。このような状態だと仕事などできないので、会社を休んでいることが多い。

 

このアップとダウンが混在するという点は重要である。

 

このような特殊な病態に対して、アップさせる薬なのか、あるいはダウンさせる薬が良いのか、あるいはどちらも良くないのか?と言う方針を本人の精神症状を診ながら判断しなくてはならない。

 

大抵の場合、抗うつ剤は悪くないように見えるが、実際の臨床ではそうでもないと思う。抗うつ剤は症状の内容によるが、良いこともあると言った感じである。

 

注意したいのは、犯罪被害者にはうつっぽく見えても易興奮性の要素があること。

 

このような局面は、脳が敏感でラジカルになっているので、むしろ抑える薬の方が中期的には安全性が高い。ここで言う抑える薬とは、バルプロ酸Naやガバペンなどの抗てんかん薬、あるいは、レキサルティやクエチアピンの少量などである。

 

僕はこのようなケースでSSRIを処方することはまずない。あったかもしれないがあまり記憶にない。

 

初診時は単剤で何らかの薬を選択して処方し、眠剤が必要であれば何らかのベンゾジアゼピンを処方することが多い。

 

直感的に、ベルソムラやデエビゴよりベンゾジアゼピンが良いと思う理由は、ベンゾジアゼピンには抗けいれん作用を内包するからだと思う。サイレース(フルニトラゼパム)かレンドルミン(ブロチゾラム)は選択し易いが、レキソタンのような強い抗不安薬でやや眠くなる薬も悪くない。

 

ある患者さんは、ある犯罪に巻き込まれて偶然、うちの病院に受診した。最初はまさに脳が不安定になっていると言った印象だったが、最初に何を処方したのか覚えていない。おそらくSSRIやミルタザピン以外の例えばバルプロ酸Naのような抗てんかん薬系の薬を処方したと思う。必死でカルテを探せば明確になるかもだが、この記事的にはあまり重要ではない。

 

その後、レキサルティやレグナイトなどを処方したり中止したりしながら、2か月くらいはぱっとしなかった。

 

しかし、最終的にラミクタール12.5㎎隔日で処方したところ、2~3週間で劇的に回復し治癒に至った。

 

彼女によると、ある朝、お母さんから、○○ちゃん、元に戻っているじゃない!と言われたと言う。

 

この場面だが、母親が、おそらく目の輝きが健康な時期に戻ったことを指摘したのだと思う。

 

この患者さんの治療の際に気付いたことは、向精神薬を受ける側のエネルギーについてである。普段はあまり意識しない概念だと思う。

 

今回の場合、「少量ラミクタールはエネルギーがいらない」である。

 

少量のラミクタールやベンゾジアゼピンは服薬する際にエネルギーがあまり必要ない。

 

犯罪被害者は、脳にダメージを受けてエネルギーを失っているので、重い向精神薬はエネルギー的に耐えられない。ここで言うエネルギーとは忍容性が低い概念とは少し異なっている。忍容性が低いのはその人の体質であり恒久的なものに対し、エネルギーが低いことは局面的なものである。

 

受ける側にエネルギーを要する薬には、SSRIやSNRIが挙げられる。少量のレキサルティやエビリファイ以外の抗精神病薬も受けるのにエネルギーを要する。

 

考え方としては、残ったエネルギーを消耗させないで治療を進めることで治癒に近づくと言った感じだと思う。

 

このように考えていくと、疾患の性質として、PTSD的な疾患と内因性精神病は大きな隔たりがあることがわかる。