統合失調症の患者さんの収容の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症の患者さんの収容の話

時に60歳くらいの統合失調症の患者さんが生まれて初めて精神科に受診し、そのまま入院になることがある。このような人は大抵、発病年齢が遅く、悪い精神状態であっても家族が病院に受診させられなかった人が多くを占める。

 

10年以上前、役場の精神科無料相談を手伝っていた。そのような相談の中に、家族が何らかの精神病を発症しているが、精神科病院に連れて行けず苦悩しているのを診ることがあった。

 

しかも、「病院になんとか連れて来れれば僕が治療しましょう」とまで言っても、実際に治療に行きつける人は10人に1人もいなかった。この無料相談を辞めた理由の1つは、精神科治療に繋がることがあまりに少なく、苦労の甲斐がないと思ったからである。

 

このような人たちは無治療のまま年齢を重ね高齢者となっていくのであろう。以下はヤフーニュースから。

 

 

この事例は今回紹介した世代よりかなり若いが、記事のように亡くならない場合、おそらく数十年、無治療のまま自宅に引きこもりだったはずである。この事件はなぜ支援を受けなかったなど、よくわからない点が多い。

 

今はたまにリエゾンで同じような状況の人たちに遭遇する。何らかの精神疾患があり骨折などの身体疾患で偶然入院し、リエゾンで相談を受けるケースである。身体科の主治医は、患者さんの奇妙な点に気づき、精神科的評価を希望しリエゾンで初診させたのである。このようなパターンは身寄りがないか、家族と疎遠になっている人たちが一定の割合でいるが、家族から精神科に受診させてほしいと希望し受診するケースもある。

 

このような人たちの背景疾患は、今は統合失調症より発達障害(ないしグレーゾーン)の人が多い。

 

基本的にある程度、疾患親和性がないと「引きこもり」のみで統合失調症にはならない。これはある意味重要だと思う。また精神科医的思考でもある。

 

僕の感覚では、引きこもりは更に重い精神病の発症を遠ざける要素があるので、統合失調症の人が稀なことはなんとなくわかる。引きこもりはある種の防衛機制なのであろう。従って上のヤフーニュースのレベルの重い精神症状の人は、国内にいるのはいるが稀なケースだと思う。(ある種の特殊な座敷牢事件)。

 

 

男女の差は重要で、女性患者さんの方がまだ高齢の家族が精神科病院に受診させられるハードルは低い。男性患者さんの場合、体力があり暴力的だと家族だけで病院まで連れて来ることはかなり難しい。

 

何らかの身体的疾患などの機会に家族が本人を騙して連れて来ることが多いが、初診時に絶対入院させないといけない精神症状レベルにあることが多い。なぜそう思うかと言うと、初診日に外来だけで家に帰してしまうと、再び精神科病院に連れてくることが困難になりかねないからである。つまり今後、精神医療にアクセスするチャンスが失われる。

 

その視点では、家族が初診でクリニックに受診させるのは非常にまずい。それは同日入院の選択肢がほぼ取れないからである。

 

そのようにクリニックに1回の受診後の治療がつつかず、その後10年以上経ち、僕が初診日に入院させた人がいる。その人は初診時にひとめ統合失調症で、入院後の治療に難渋した。治療的には最終的にロナセンが良かった。ゼプリオン筋注まで実施したのに、結局それを中止し、ロナセン単剤で良かったのは意外であった。持続性抗精神病薬を選択した理由は、病識が完全に欠如しており、退院後、服薬してくれるかどうか不明だったからである。

 

60歳くらいの女性でさえ、入院させると奇声や興奮、奇妙な行動など多彩な精神症状があり、よくこんな人を家族が家でみていたと思うものだ。

 

このような悲惨な経過は家族にも一部責任があると思うが、基本、人権の視点から、公的機関もそこまで踏み込めないのが実情である。医療保護入院は医師だけの判断ではできないことをみてもそれがわかる。自傷他害がなく家族が入院させるつもりがない場合、たとえ本人にとって最も良い選択肢だったとしても、入院治療させる目的で措置入院にするのは違法である。この「本人にとって最も良い選択」とは、法律的にはパレンスパトリエの思想に基づく。

 

 

昔はもう少し人権の面でルーズで、病院に患者さんの家族から依頼を受け、しかも一刻も猶予がない状況では(殺人事件がおこりかねない時)、病院車で看護師や精神保健福祉士(まだ国家資格ではない頃)を同伴し、家まで行き大変な騒ぎになりながら入院させていた。実際、機動隊まで出動し、どう考えても空にヘリコプターでも飛んでテレビ中継でも行われてもおかしくない収容でも、翌日、新聞をみると記事にすらなっていなかった。

 

当時、日本では、このような移送が社会防衛の視点で行われていたことが想像できる。(上記のリンクカードの中のポリスパワーの思想)。

 

現在は、収容時に職員に大怪我や死亡などが起こりかないので、初診の人を職員を同伴して収容させることはない。

 

このタイプの収容は、病院職員の死亡や大怪我だけでなく、収容する際に患者さんが様々な理由で死亡するリスクがあり、現代社会では容易ではない。(万が一そうなったら裁判でも勝てない)。

 

最近のよくある収容の流れは、家族に暴力を振るうなど暴れた際に、警察官を呼び、警察官により精神病院に連れて来られるパターンである。深夜の輪番だとそのパターンが頻度は低いが一定のパーセントであり、精神症状的にその日に医療保護入院になることが多い(もちろん措置入院になることもあるが、この流れでは大抵医療保護入院)。移送はもちろんパトカーである。

 

最近困るのは、このような人は発熱していることもあるし、発熱がない場合でも新型コロナが否定できない際、PCR検査がわかるまで収容する場所があまりないことである。精神科病院では保護室を利用することが多いが、たまたまその日、入院してに同じ理由で使っている人がいたりで対応に困ることもある。

 

一方、既に外来治療中で、悪化したら家族が連れて来れないタイプの患者さんは悪化の状況がわかりやすい上、患者・職員がお互い良く知ってるため、大きな問題が起こりにくい。

 

そのような人は、うちの病院でも10年くらい前まで職員を連れて自宅まで収容に行っていた。今はそこまではしないが、全国的には病院によればそこまでしてくれることもある。

 

現在、法律が改正されて、近い将来、医療保護入院がなくなるのでは?と言う噂があった。現況、次の改正ではなくなることはないと言われている。医療保護入院がなくなると、治療を受けるべき時に治療ができない人たちが出て来る。

 

困るのは精神科病院ではなく、当事者の家族である。今回の記事を見ればそれが容易にわかると思う。

 

参考