アナフラニール点滴の心理的効果 | kyupinの日記 気が向けば更新

アナフラニール点滴の心理的効果

アナフラニールの点滴製剤は少し特殊で、点滴した日に効果が出る。患者さんの話では、点滴をし終わってベッドから起きた時に、不安感や抑うつ気分が少し晴れたように感じ、身体が楽になっているという。

 

あるいは、点滴をした直後はそこまで変化を感じないが、家に帰ったら、料理ができるようになっているとか、ゆったり横になって休めるというなど、不安焦燥感が軽減し落ち着きが出て来ると言う人もいる。

 

アナフラニールの点滴は3環系抗うつ剤だが、なぜか即効性があり、急場を凌ぐようなことも可能である。そのタイプの抗うつ剤は日本では発売されていない(ケタミンはそのタイプだと想像する)

 

そのようなことから、今なお、アナフラニール点滴は存在感のある治療法である。

 

ある時、他県からしばしば希死念慮が生じ自殺未遂も数回経験のある双極性障害の患者さんが転院してきた。その人の処方は、ちょうど双極性障害の定番の治療に移行しつつあった。それは抗うつ剤を中止し気分安定化薬とクエチアピンやラツーダで治療を行うことである。

 

双極性障害の人で抗うつ剤を中止する理由は、抗うつ剤を併用することで病状が極めて不安定になる人がいるからである。(急速交代型やボーダーラインのような病態)

 

しかし全ての双極性障害の人が抗うつ剤を中止すべきかと言うと、そうでもなく、抗うつ剤を併用しておいた方が病状が安定し就労できる人もいる。

 

つまり100か0かの極端な考え方は良くない。双極性障害のうつ状態が遷延し、精神科医が定石に捉われ何もしないと、その人の生活がなりたたないということも見逃せない。その意味では精神科医は柔軟な発想が求められる。

 

ちょっと前の記事(2016年)

 

 

上の記事の中では、

 

○リーマス+抗うつ剤
抗うつ剤は、依然として双極性障害のうつ状態に広く処方されている。特に双極性障害治療中のうつ状態エピソードに使われるが、効果があると考えられてきたが、周期を早め躁転のリスクがある。複数の論文で、気分安定化薬単剤は、気分安定化薬+抗うつ剤と同等の効果があると指摘されている。一般に3環系抗うつ剤とMAO阻害薬は避ける。イフェクサーとブプロピオンも処方されるが、イフェクサーは躁転のリスクがある。一般にSSRIが推奨される。リーマス+抗うつ剤では、リーマスの血中濃度が0.8mmol/L未満の時のみ効果があると言うエビデンスがあるが、議論がある。うつ状態の改善後、抗うつ剤の継続投与は再発を抑制するが、これは気分安定化薬を併用していない場合のみである(←驚愕の指摘)。現時点では、抗うつ剤を長期的に継続投与すべきかどうか、コンセンサスは得られていない。

 

○抗うつ剤
双極性障害のうつ状態では、抗うつ剤の単剤療法(気分安定化薬による保護がない)は、躁転のリスクがあるため一般に避けられている。抗うつ剤は単極性うつ病には効果があるが、双極性のうつ状態には効果が小さいか無効であるというエビデンスがある。しかし、プロザック、イフェクサー、オーロリクス(モクロベマイド)の短期の単剤処方は、かなり効果的でかつ安全と考えられる。しかし全体としては、特に双極性障害1型には抗うつ剤の単剤療法は避けるべきである。
 

これらは参考になる。

 

結局、その患者さんもリーマス+ラツーダ+セロクエルで次第に安定し希死念慮なども診られなくなった。しかし夏の暑い時期など免疫系が下がる時期に抑うつ気分が再燃し、困惑~亜昏迷に至った。どうもマニュアル通りだと双極性のうつ状態がうまくコントロールできず、生産的なことができない時期が訪れるのである。

 

この時、アナフラニールの点滴を勧めてみた。アナフラニールの点滴はこの精神症状には良さそうに見える。結局、数回アナフラニールを点滴することでうつ状態を脱し、ほぼ良い時期程度に動けるようになったのである。(しかも忍容性が低く少量で極めて有効)

 

この数回の点滴と言う早いスピードで改善した体験は、その患者さんの心理に好影響を与えたと思う。非常に悪い時期に、内服ではない治療で速やかに改善したからである。

 

少なくとも、今後、絶望に至るまで追い込まれない治療法が自分にはあるという、心理的な安心感が得られた。

 

その視点では、あのアナフラニール点滴及び改善の経験は精神療法的に作用したと思う。

 

参考