ジスバル(遅発性ジスキネジア治療薬) | kyupinの日記 気が向けば更新

ジスバル(遅発性ジスキネジア治療薬)

 

2022年6月1日に遅発性ジスキネジア治療薬ジスバルが発売されている。製造販売元は田辺三菱製薬、販売元はヤンセンファーマである。プロモーションは吉富薬品も行う。

 

わかりやすい遅発性ジスキネジアは「口をもぐもぐさせる動き」で、精神科長期治療中の高齢の女性に生じているのを時々診る。

 

遅発性ジスキネジアは精神科ではドパミン遮断系向精神薬を長期に服薬した際に生じうる。頻度的には高齢の女性に診られやすいが、男性にも生じうる。

 

かつては非定型抗精神病薬がなかったため、定型抗精神病薬を長期に服薬した高齢女性に起こることがあった。ここ20年くらいで非定型抗精神病薬が主に処方されるようになり、頻度は減少している印象である。

 

また軽度の遅発性ジスキネジアは定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬に変更することでかなり減少するかほとんど見られなくなる人もいる。(例えばセレネースからエビリファイなど)

 

逆に、大用量の定型抗精神病薬を服用していた人が非定型抗精神病薬に変更したためにかえって出現することも診られていた。これは大用量の定型抗精神病薬は、EPSを抑え込むことも可能だからである。

 

元々ドパミン遮断作用がほとんどないか僅かな非定型抗精神病薬、例えばクロザリルやセロクエルが遅発性ジスキネジアを生じにくいのはわかりやすい。非定型抗精神病薬の中でリスパダールの多めの用量は力価的に遅発性ジスキネジアが生じても全くおかしくない。また忍容性が低い人はジプレキサやシクレストくらいでも生じうる。

 

エビリファイはパーシャルアゴニストなので、作用機序的に遅発性ジスキネジアが生じにくくなっている。(ドパミンレセプターのアップレギュレーションが起こりにくい)

 

このようなことから、かつて定型抗精神病薬を長期投与された統合失調症の患者さんに遅発性ジスキネジアは診られやすかったが(高齢者)、非定型抗精神病薬の発売以降でさえ、高用量を服薬していた人も診られておかしくないと言える。忍容性の低い人は比較的若い人にも診られる副作用である(30歳後半から40歳代)

 

 

今回、遅発性ジスキネジア治療薬が新発売された。ジスバルという商品名で白のカプセルである。40㎎の1剤型しかなく、かなり薬価が高い。1カプセル約2331円もするため、1か月で7万円もかかる。しかも適宜増減でき80㎎まで投与可能なので14万円までかかりうる。

 

 

日本では新薬の薬価は、既に発売されている似た薬効の薬の薬価が参考とされる。ジスバルはコレアジンと呼ばれるハンチントン病の舞踏運動の薬の薬価を参考にされたらしい。

 

 

 

ハンチントン病はかなり稀な神経病で、遅発性ジスキネジアとの発症頻度は大差である。この2つが同様な薬価と言うのはいかがなものかと思う。

 

ジスバルは1箱100カプセル入りで23万円以上するので、おいそれと使えない薬だと思う。現在、処方しても良いかと思う人は、既にDBSの施術を受けていて、今なおメージ症候群などが残遺している比較的若い女性患者さん。この人は使う価値があるが、数回使って副作用で中止した際の損害が大きすぎる。(院内薬局の場合だが、院外薬局だって大迷惑だと思う)。

 

ジスバルを処方してみたいと思う人は入院患者さんにいるからである。この人にトライするだけでは到底購入はできないと思った。精神科に限らないと思うが、医療経済的(病院だけでなく国の財政も含め)なものも考慮すべきだからである。

 

ただし、食道のジスキネジアでいつも反芻が生じている男性患者さんは、ジスバルでこれが改善するならメリットが大きい。基本、ジスキネジアやジストニアは随意筋にしか生じない。食道は上部が随意筋なのでここに遅発性ジスキネジアが生じうるのである。もしジスバルが有効でこれらが軽減すれば長期的には誤嚥性肺炎を軽減するであろう。

 

しかしながらこのような患者さんは包括病棟にいることが多いので、そのままジスバルを処方したなら、その処方金額は病院の手出しになり、やはり大損害である。

 

このようなことから、ジスバルは上梓されたのは良いが、扱いにくい向精神薬だと思う。なお、有効性は70%くらいという話である。

 

今回の記事では、ジスバルの薬理作用についてあまり触れていないが簡単に以下に紹介する。

 

ジスバルの一般名はバルベナジントシル酸塩。VMAT2阻害作用を持ち、ドパミンの再取り込みを阻害することを通じドパミン過敏性を低下させる。

 

これは精神科では抗精神病薬の長期のドパミン遮断作用のため、ドパミンレセプターがアップレギュレーションし、ドパミン過敏性が生じるためである。ジズバルを投与することで受け手のドパミンレセプター数が正常に近づくのかもしれない。

 

ただし正確なのか自信なし。そう思う理由は、ジスバルの作用機序そのものが抗精神病薬に似ているからである。ジスバル自体は統合失調症の精神症状を感覚的には悪化させないと思う。

 

エビリファイがアゴニスト的な振舞を通じてドパミン過敏性を低下させることに対し、ジズバルは伝達物質のドパミンを(再取り込みを阻害することで)減少させる機序になっている。

 

このような医療上の感覚的なある種の乖離は時々診療で診られる。例えばDBSは統合失調症の精神症状を悪化させておかしくないが実際はそんな風には見えない。しかし、DBSの施術が始まった当時は、統合失調症には良くないのでは?と考えられていた歴史がある。

 

まだ自分にはよくわかっていないからだと思うが、エビリファイ理解しやすいが、ジスバルはまだよく理解できないでいる。

 

なお、今まで遅発性ジスキネジアに対して精神科では主に適応外処方が行われてきた。正確に「遅発性ジスキネジア」に適応がある薬などなかったからである。唯一、グラマリールはジスキネジアが適応に挙げられていたが、他の適応外処方に比べとりわけ効くようには見えなかった。

 

 

遅発性ジスキネジアに使われていた適応外処方薬は、リボトリール、ユベラN、シンメトレル、グラマリール、ビ・シフロールなどである。

 

なお、抗コリン薬はEPSに処方される薬だが、遅発性ジスキネジアには良くないと言われていた(現在のエビデンスは詳しくない)。