精神科医があまり処方を変えない理由 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医があまり処方を変えない理由

外来診察で「最近、あまり調子が良くない」という話から始まり、結局、処方変更せずで終わることが良くある。僕はわりあい処方変更が多いタイプだと思うが、それでも変更しないことが多い。

 

僕が処方変更が多いタイプだと思う理由は、転院してきた患者さんが時々そんな風に言うからである。

 

処方変更する判断だが、調子が悪くなった状況(規模)や、特にその人の病歴(処方変更の履歴も含め)が大きく影響する。

 

さんざん処方変更の歴史があり、ある程度満足できるレベルが維持されているのであれば、少々の「調子が良くない」くらいでは処方変更できない。

 

その点で、転院してきた患者さんは処方変更の履歴がわからないため処方変更しやすい。だから時々転院患者さんが「処方変更が多い方だ」と言うのである。一方、精神科受診歴がない初診の人は、他病院と比べないので何も思わない。

 

処方変更が少なくなる原因の1つに今の向精神薬のタイプにもあると思う。まず抗精神病薬では、新薬は非定型抗精神病薬なので、かなり人を選ぶことが挙げられる。言い換えると、新規投与で失敗しやすい。

 

忍容性が低い人や投与初期に悪化しやすい(ある種のプラセボ)人は、次第に処方変更を嫌がるようになる。そのことは主治医もわかっているので処方変更を躊躇う。その結果、滅多に処方変更されないなど、消極的な治療になりやすいのである。

 

抗うつ剤では概ね似たような新薬が多い。セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを相対的に増やすかエフェクティブにするものである。

 

今回、フルボキサミン(デプロメール)が枯渇し数名、セルトラリンに変更せざるを得なかったが、1名は以前より気分が良くなったと言う。セルトラリンの方がフルボキサミンより抗うつ作用が上回るので自然な結果ともいえる。この人は10年くらい前に転院初診後、ずっとフルボキサミン150㎎のままで、普通に家庭生活をされている婦人だったので変更する理由がなかった。

 

おそらく、ずっと処方変更がない人はこの婦人のタイプが多いと思われる。

 

最近のSSRIではない抗うつ剤は本人に悪化することもあると注意喚起し、現在の精神症状が悪い時に限り処方変更すると言ったところだと思う。ここで言う「SSRIでない抗うつ剤」とは、SNRIやトリンテリックスだけでなく、旧来の3環系、4環系抗うつ剤も含まれる。

 

現在、向精神薬で最も変更しやすいものは睡眠薬であろう。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は高齢化社会をふまえ、筋弛緩作用の少ないタイプに変更した方が望ましい。ベルソムラ、デエビゴなどは主治医から推奨されやすいと思われる。

 

精神科の患者さんは長期通院していることが多く、5年前から何も処方が変わっていないことも良くある。おそらくそのような人は、現在精神症状が落ち着いていることが多いと思われる。しかし、1年以上処方が変わっていないがそこまで落ち着いてはいない人もいるのである。

 

その理由は、上に記載した通り、これまでの処方変更の結果、忍容性、患者さん本人の希望も含めて総合的に判断されていると思う。

 

精神科で最も処方変更しやすい状況は、悪化して入院した時である。外来患者は少なくとも入院するほどではないレベルなので消極的治療になりやすい。処方変更したために悪化して入院する経過は実際にあるわけで、そうなるのもやむを得ない。

 

今回の記事では、精神科であまり処方変更されない理由を記載しているが、いつも同じ主治医に受診することは非常に重要である。

 

毎月受診しているのに、年間に3~4回しか僕と会わない人がいる。このような人はほとんど落ち着いていることが多いが、たまにそうでもない人もいる。

 

定期的に受診しない人は処方変更し辛いものだ。その後の保証がないからである(中途半端のまま放置されるリスクのことを言っている)。

 

参考