リエゾンの向精神薬処方の出口戦略 | kyupinの日記 気が向けば更新

リエゾンの向精神薬処方の出口戦略

リエゾンでの治療期間は、一般の外来での治療期間より短いことが多い。その理由は退院後、必ずしも自分が診るとは限らないからである。リエゾンでは患者さんがほとんどが高齢者なので、典型的な統合失調症や双極性障害の人はあまりいない。この記事ではその前提で記載している。

 

例えば、以下のような処方で落ち着いたとしよう。

 

バルプロ酸Naシロップ 12ml

 

この処方は、バルプロ酸Naで600㎎に相当する。この処方でバルプロ酸の血中濃度の治療域上限を超えることはまずない。しかし、もしこの患者さんが85歳としたら、600㎎は長期に継続するには多過ぎると思う。

 

入院以前に向精神薬を服用していない人は、精神症状の悪化は症状性のものが多いはずである。つまり、長期的には必要ない人の方が多い。

 

リエゾンの出口戦略的には、漸減してバルプロ酸Naをゼロにするか、処方したまま退院させるのであれば、その後の観察をすべきであろう。そのようなことから、自宅か施設に帰った後、精神科外来に来院するように指導する。自宅や施設が遠方の際は近くの精神科病院に紹介する。

 

そうした方が良い理由は、内科医(例えば施設の嘱託医)は、バルプロ酸Naを続けるべきか、あるいはどのようなスピードで漸減中止すべきなのかわからないからである。また、減薬中に不穏状態に至った場合、どのように対応をしたら良いのか困ることが多い。

 

何もしない場合、内科薬(降圧剤など成人病の薬)に混ざり、バルプロ酸Naが処方され続けることになる。

 

高齢の患者さんがバルプロ酸Naが200㎎程度で落ち着いている時、肝機能に問題がない人は、極端な話、亡くなるまで飲み続けてもあまり影響がないと思う。

 

しかし200㎎程度で落ち着ている人は、身体疾患が落ち着くとか、自宅に帰り副交感神経優位な環境では必要なくなる経過も多い。

 

明確に長期に必要であろうと思われる人もいる。例えば脳出血後遺症でパーマネントな精神症状があり、しかもバルプロ酸Na400㎎程度で落ち着いている人。このレベルなら、この用量のまま処方継続するように嘱託医に紹介状を書くケースもある。

 

バルプロ酸Naに比べ抗精神病薬はずっとデリケートである。高齢者ではかなり少量でも長期的にどのような副作用が起こるか、あるいは起こらないままななのか予測が難しい。

 

例えば、レキサルティ0.25㎎で素晴らしく精神症状が改善した高齢者がいたとしよう。このような人は、レキサルティを例えば亡くなるまで服用したとしても大丈夫な確率がかなり高い。むしろ寿命が延びるまでありうる。

 

なぜレキサルティがジプレキサやリスパダールより安全性が高いかと言えば、パーシャルアゴニスト系の薬だからである。またこの用量というのもある。

 

これはその人の背景疾患にもよる。例えば、レビー小体型認知症やパーキンソン病では、当初はレキサルティで鎮静または賦活したとしても、長期的にはパーキンソン症状が悪化することは少量でもありうる。

 

身体科病棟で最も注意したい抗精神病薬は、リスパダールであろう。なぜなら、いかなる総合病院でもリスパダールだけは薬局にあるからである。リスパダールは高齢者にはかなり重い薬である。

 

従って、不穏状態の鎮静のためにリスパダール1㎎を処方し、施設や自宅に帰るような流れになった場合、自分が診られない時は他の精神科医にその後の用量調整を依頼した方が良い。

 

少量のジプレキサも退院後に用量調整すべきだと思う。ある時、拒絶、拒食、看護師への暴力などに対し、ジプレキサ0.625㎎から開始し、1.25㎎で内科病棟で全く問題ないほどの落ち着いた高齢者がいた。そして精神症状が落ち着き、施設入所待ちになった。1.25㎎なので、もしかしたら必要ないのでは?と思い中止してみたのである。

 

ところが、中止後40日くらいしたら再び症状が再燃したのである。この患者さんは現時点ではジプレキサ1.25㎎は必要のようであった。ジプレキサ1.25㎎は実に微妙な用量で、これを服用することで食事が安定的に摂れるのであれば長期継続もやむを得ない。しかし、この用量でも、中期的~長期的に嚥下が悪化する人がいるので、精神科医による観察が必要だと思う。

 

長期的に嚥下が悪くなり、嚥下性肺炎を起こしやすくなることが、バルプロ酸などの気分安定薬と抗精神病薬の大きな相違である。たまにバルプロ酸Naでさえ、ジストニアが生じる人がいるが、これはかなり珍しい特異体質だと思う。

 

抗精神病薬の中でもセロクエル(クエチアピン)だけはEPSが出にくく、身体科病棟ではかなり使われる薬である。しかしクエチアピンもバルプロ酸Naほどは安全ではなく、高齢者では時にパーキンソン症状の悪化が診られるし、横紋筋融解症も生じうる。クエチアピンでさえ、誰か精神科医が経過観察すべきである。

 

高齢者では、忍容性のばらつきが若い人たちよりずっと大きいので、リエゾンの出口戦略は非常に重要だと思う。