ラツーダとエビリファイ、ルーランの話 | kyupinの日記 気が向けば更新

ラツーダとエビリファイ、ルーランの話

今年6月、ラツーダは失敗続きであまり処方していないと言う記事をアップしている。

 

 

上の記事をアップした後、少し反省してもう一度トライしてみた。すると良い経過の人もいて処方数が増えている。今回はラツーダを処方した最初の感想だが、比較としてエビリファイとルーランの2剤についても触れている。

 

今調べてみると、ラツーダは外来で7名、入院で4名も処方している。2021年6月の時点で1名だったのでかなり増えている。この11名以外にまだ登録していない人も数名いるはずである。

 

ラツーダは処方する側からみると、ピンポイントタイプであまり仕事の幅が広くない抗精神病薬のように見える。そのようなこともあるのか、この人に処方しようかと思う患者さんの疾患イメージはエビリファイ(アリピプラゾール)やルーランとかぶる。

 

しかしラツーダとエビリファイはかなりタイプが異なると思う。

 

外来の7名のうち統合失調症の人が3名、双極性障害の人が4名である。どのくらいの人に試みてどのくらい定着したかは統計を取っていないが、半分以上は脱落していると思われる。脱落を重ねた結果が7名の処方数である。

 

入院の4名は2名統合失調症、1名が双極性障害、1名が非定型精神病である。非定型精神病の人はその後中止したので現在は3名である。中止した理由は躁転および病状不安定であった。この人はいったん中止したが良い点もあるので今後再開する可能性がある。

 

全般、双極性障害の方が脱落しにくい印象である。(基本、いずれもかなり脱落する)

 

ラツーダは必要な仕事以外は一切しないタイプで、2つの柱以外はあまりレセプター的にも作用がない。その2つの柱とは、D2遮断作用(一般的な抗幻覚妄想作用)および5HT1A、5HT7への作用(不安、抑うつ、認知の改善)である。この5HT1Aの作用はルーランと同じだが、これに加え5HT7への作用が加わっているのが抗うつ、抗不安、認知の改善に関して優れている点である。

 

実はこのシンプルな薬理作用のために開始時に失敗しやすい。過去ログでジプレキサのような節操のないどこにでも作用する抗精神病薬は面倒見が良いと記載している。これは薬理作用の厚みのことを言っているのである。その厚みがラツーダには不足している。

 

元々、新薬は重い統合失調症など難治性で困っている人たちに処方されやすい。そのような人たちは幅広いレセプター作用を持つ薬が処方されていることが多く、ラツーダのようなピンポイント系の薬に切り替える際に波乱が起こりやすい。この理由で、従来薬が仕事が多いタイプの場合、従来の薬を漸減、ラツーダ漸増でゆっくり併用しつつ切り替えるべきである。

 

その視点では、ラツーダはまだ双極性障害の人へ処方する方が波乱が少ないと言える。

 

特に双極性障害では、特に不安抑うつのために抗うつ剤が処方されていることが稀ならずある。これは明確に双極性障害と診断できるほどきれいに双極性障害の経過ではないことに加え、いつも重いうつ状態が続いているからこそ抗うつ剤が処方されている。

 

例えば、過去に1度だけ短い躁転があり、それ以降ずっとうつ状態が続いている人は、果たして本当に双極性障害なのかさえ微妙である。しかしながら、難治性であることこそ双極性障害的所見ともいえるので、もしラツーダが合えばその方が良い。なぜならラツーダ処方を契機に抗うつ剤が漸減中止できるからである。

 

あるリストカットや大量服薬を繰り返し15回くらいの入院歴がある双極性障害の婦人がいた。彼女はその後、線維筋痛症を併発しサインバルタも処方していたが、次第にサインバルタ+クエチアピンで安定するようになった。そして事件が3年に1度になったのである(大量服薬のみ)。この人は今はクエチアピン400㎎+ラツーダ40㎎で安定している。抗うつ剤なしで線維筋痛症の再発はない。

 

つまり、双極性障害にラツーダがフィットするケースは、抗うつ剤および抗不安薬を整理するハードルが下がるのである。(整理しやすくなる)。これはラツーダの5HT1A、5HT7への作用が関与している。厳密に言えば、ラツーダは5HT1Aへのアゴニスト作用、5HT7へのアンタゴニスト作用を持つ。

 

さて、統合失調症に対するラツーダはピンポイント系が災いして導入で失敗しやすい上に、重い患者さんでは上限の80㎎処方しても幻覚妄想などの症状が残遺することが稀ならずある。しかしラツーダを服用していると、なんだか表情が明るくなる人が多い印象があり、SDAっぽい薬だと感じる。

 

基本的にラツーダで重篤な統合失調症の人を治療するのは難しいと思う。これはクロザリルが難治性統合失調症に推奨されていることの裏返しである。

 

エビリファイ(アリピプラゾール)は、抗うつに関しては少量でのD2へのドパミンライクな関わりが大きい。エビリファイも5HT1A、5HT7への作用もあるが、相対的に作用が少ないためか臨床的にそれが実感できない。(エビリファイがルーランやラツーダほど不安に効かないこともそれを示している)。エビリファイは良くも悪くもD2へのパーシャルアゴニスト作用が主だと思う。

 

それに対してラツーダはしっかりD2を遮断するので、おそらくエビリファイよりはラツーダの方が幻覚妄想にまだ有効なはずである。そのような特性から、僕は今のところラツーダを処方する際にはエビリファイを中止するようにしている。(それが本当に正しいかはわからないが)

 

そのようなことから、ラツーダは錐体外路症状が出て増量できないか、抗パーキンソン薬が必要なケースもある。

 

エビリファイとラツーダは症状が似ている患者さんに対し処方されると思うが、それぞれの薬に得手不得手があるので、どのくらいのパフォーマンスの差があるか見極めなくてならない。

 

ラツーダの特性として体重が増えないことがある。エビリファイも体重が増えない薬とされているが、イレギュラー的に体重増加する人も稀ならずいる。激増がないだけである。ラツーダはH1への作用が皆無で、エビリファイに比べても体重が増えないといえる。(注:体重増加の原因はH1だけではない)

 

このように見ていくと、ラツーダは統合失調症より双極性障害の人の方が処方しやすいことがわかる。