不安障害にソラナックスから始めること | kyupinの日記 気が向けば更新

不安障害にソラナックスから始めること

今回は不安障害とソラナックス、デパス、ワイパックス等のベンゾジアゼピンの話。

 

30年くらい前、不安障害にはベンゾジアゼピン系の抗不安薬が処方されることがほとんど全てだったと思う。僕が精神科医になった当時、上の3剤は既に発売されていた。

 

この3剤の他、セルシン、レキソタン、セパゾンなどを選択する医師もいた。デパスは厳密にはベンゾジアゼピン系ではないが、今回の記事では同列に記載する。

 

現在、不安障害(のみ)の患者さんが初診した際に、ベンゾジアゼピンを処方しない精神科医も増えている。その理由は初診時に、

 

ソラナックス(0.4)  1T

   2x1

 

くらいと少量で始めたとしても、数年後には

 

レクサプロ(10)     1T

ソラナックス(0.4)    6T

メイラックス2       1T

 

と、SSRI+ベンゾジアゼピン系2剤になってしまいかねないからである。この処方になるくらいなら、最初からSSRIを処方する方が良かった。

 

ここで言っておくが、そもそもベンゾジアゼピン系薬物は不安障害に適応があるので、処方することが間違いと言う主旨ではない。特に今回の記事はそうである。

 

もし、不安障害にベンゾジアゼピン系薬物を処方しないなら、少し工夫を要する。医師によると加味逍遥散などを処方する人もいるかもしれない。しかし、不安障害の規模にもよるが加味逍遙散だけで軽快する人はあまりいない。

 

ここで重要なのは単一の不安障害ではなく、何らかの内因性疾患があり、その症状の1つとして不安がある患者さんには、ベンゾジアゼピンを避ける医師も多そうに思われること。

 

例えば統合失調症の妄想気分に伴う不安感にベンゾジアゼピンなどを処方してしまうと、脱抑制が生じて大変なことになりかねない。

 

ただし、ジプレキサなどの大量に加えてレキソタンなどの強いベンゾジアゼピンを併用した場合は、それほど大きな失敗にはなりそうにない。むしろ、より安定するまである。それでもなお、レキソタンは併用しない医師が多そうである。

 

内因性疾患であれば不安状態にベンゾジアゼピンを避けることは比較的容易である。

 

僕の場合、初診の人にソラナックス、デパス、ワイパックスは処方しないので、時間が経ってソラナックス6Tとかの処方になることはない。ただし、転院してきた患者さんで初診時に既にソラナックス6Tの人たちに対し、コストをかけて中止することもない。その理由はその処方で落ち着いているなら、そこまで頑張って中止する価値がないと思うからである。ソラナックス6T処方は、第2選択か第3選択の結果だと思う。

 

そう思う理由は、最初に書いたソラナックス1T、2x1の処方が時間が経ち、全てソラナックス6Tの処方になるかと言うと決してそうではないことがある。

 

ソラナックス(0.4)  2T

   2x1

 

くらいに留まる人も稀ならずいる。数年経って、この処方を1か月分処方されて、3か月とか半年に1回再診する人もいる。このような人に問うと、「たまにしか飲まないから」と言う。このような人は精神医療的に言えば既に治癒していることに近い。

 

このようなことを考えていくと、ベンゾジアゼピン系薬物はアルコールに似ているのがわかる。実際、脳内に作用する部分も近い。つまりベンゾジアゼピン(アルコール)はほとんどの人はコントロールできるが、たまにアルコール依存症になる人もいると言ったところである。(服薬量をコントロールできない人)

 

僕が初診時に上のソラナックス6Tの処方を見た際、そのまま経過観察する理由は、ソラナックスがアルコールとは異なり、体や脳に有害性が遥かに低いこともある。

 

また、もしレクサプロを初診時に投薬したとして、日本人の場合、SSRIに耐えられない人が少なからずいるし、SSRIが定着したとして、「たまにソラナックス1錠飲む」といったほぼ寛解状態にはなりにくいこともある。SSRIは毎日服薬してなんぼの薬である。たまに頓服で飲むものではない。

 

そのようなことから、ソラナックス6Tの処方でさえ、それで安定していて仕事や家事ができているなら、最悪の処方とは言い難いと思う。

 

このブログを開始した当時(2005年頃)、不安障害に対しリボトリールをよく処方していた。リボトリールは抗てんかん薬なので適応外処方であるが、不安に対し有効である。

 

リボトリールもベンゾジアゼピン系薬物じゃないと思うかもしれない。リボトリールは、最初の3剤のように半減期が短くはないため、ベンゾジアゼピン的なフラッシュがほとんどない。この特性があるため、時間が経って増えて行きにくいのである。そこが大きな相違だと思う。長期間経っても、せいぜい2~3Tまでに留まる。自分の患者さんに限ればそのまま1T(0.5㎎)継続が多い。(この差異はセリンクロがアルコールのフラッシュを軽減するメカニズムを持つことに通じる)

 

もうひとつの良い点はリボトリールは抗てんかん薬なので、将来、ラミクタール、トピナ、ガバペンを併用する際にそのまま追加できたことも大きい。現在、ラミクタールは抗てんかん薬として単剤投与できるが、当時はこの3剤はいずれも単剤で投与できなかった。リボトリールが既に処方内にあればそのまま追加できた。ここが同じ長時間型のメイラックスとの大きな相違である。

 

2000年代は不安障害にルーランの微量を使うこともあった。過去ログにルーラン1㎎処方の話が出て来る。ルーランは微量だと離脱も出ないし、増やすと全然振舞いが違ってくるので次第に増える展開にならない。ルーランの微量はあたかもブスピロンのような処方だと思う。(過去ログ参照)

 

なお、現在、自分の患者さんにリボトリールを処方することは激減している。その理由はレキサルティの微量(0.25~0.5㎎)が不安感にけっこう良いからである。これはエビリファイにはない特性だと思う。なお、これも適応外処方である。

 

不安障害に対し、薬物的にレキサルティの微量は力不足なので、時間が経ってSSRI、特にレクサプロを追加する流れになることが多い。もう少しうつが目立つような人は今ならトリンテリックスが良い。不安障害~うつ状態に対し、レクサプロよりトリンテリックスの方が広い治療スペクトラムを持ち合わせるようで、病態のカバー範囲が広いように感じる。

 

レクサプロ 10㎎

レキサルティ 0.25㎎

   1x朝

 

この処方は、たいていの場合、時間が経つと微量のレキサルティは力価的にレクサプロに作用負けしているので、安全に離脱もなく中止できる。しかしレキサルティを0.5㎎程度服薬している人では、体を動かすような作用(トリンテリックス的な)があるので、レキサルティを併用している方が働きやすいと言う感想もある。

 

このようなことから、自分のオリジナルの患者さんはソラナックスやデパスの6T処方にはならないのである。

 

今回、本当はこれを書きたかったのだが、精神科医には色々な人がいるもので、ベンゾジアゼピンを片っ端から中止するという極端なバランスで治療する人がいる。

 

ある時、初診から治療を開始し、次第に安定しリボトリールを1.5㎎だけ処方中の高齢の患者さんがいた。その患者さんは不安障害ではなく、背中の奇妙なむずむず感覚のために処方していた。このタイプの症状は時に難治の人もいるが、その人はリボトリール単剤で良好にコントロールできており、遠方から来院されていたこともあり、1年くらい経ち地元のかかりつけ医(内科医)に投薬をまかせた。

 

5年くらい経ち、その男性はある中核病院に癌の治療のために入院することになった。手術も受けたのである。ところが、リエゾン医師がベンゾジアゼピンは全て中止の哲学で治療する人で、リボトリールを中止してしまったのである。

 

すると、忽ち異常感覚が再燃し、その不快感のために安静どころではなくなった。その直後、彼の娘さんが困り果てて僕に相談に来院されたのである。その中核病院にいる限り、こちらは処方を指示することなどできないため、自分がリエゾンで診ている病院に転院させてもらうように計らった。そして転院すると、リボトリールを1.5㎎を再開したところ、速やかに症状は治まったのである。

 

そこまでしてリボトリールを中止する価値がありますか?

まして高齢で癌の治療をした直後なのに。

 

と言ったところである。

 

このような奇妙な精神科医は、総合的なバランス感覚を欠いているので、上手い下手の次元を超えている。ある意味、下手より重罪だと思う。