初診時に吐き気があるうつ状態 | kyupinの日記 気が向けば更新

初診時に吐き気があるうつ状態

うつ状態の人で初診時に吐き気がある人がいる。不安を伴う人が多い印象である。また、たまに吐き気に加えめまいがある人もいる。今回はこのような人たちの治療薬について。

 

近年は、うつ病治療の上位にSSRIが推奨されている。例えば、レクサプロ、ジェイゾロフト、パキシルなどである。しかしSSRIは初期に嘔気が出現しやすく、感覚的にはかなり処方しにくい。

 

僕は基本的には嘔気があるうつ状態の初診患者にはSSRIは処方しない。なぜなら、患者さんが一大決心で精神科に受診したのに、精神医療に幻滅しかねないからである。少なくとも、主訴の大きな柱が悪化する治療は選択しにくいのである。

 

なお、SSRIではないが、トリンテリックスも初期に嘔気が出やすいので選択しにくい。(僕は処方しないことが多い)同様に、サインバルタやイフェクサーもそうである。

 

今回、SSRIを避けるとして、どのような選択肢があるか、うつ状態の治療の質と量の視点で治療薬を紹介したい。バラバラに挙げていくので、上に行くほど良いと言う意味ではない。

 

〇リフレックス(ミルタザピン)

ミルタザピンはSSRIに比べ吐き気の副作用がかなり少ないので推奨される。とりあえず吐き気があるうつ状態には無難な選択肢だと思う。しかし、総合的に見ると、リフレックス単剤で片付かないうつ状態、うつ病はかなりある。近年発売されたトリンテリックスなどのパワーがある抗うつ剤を比べると、効果が弱い抗うつ剤に見える。

 

〇ドグマチール(スルピリド)

これはできれば処方したくない選択肢である。基本的に僕は安易にドグマチールを処方しない。ドグマチールはD2遮断作用を持ち吐き気を抑える効果があるため、嘔気にはかなり治療的と言える。しかしうつ状態が重いと非力なので、自殺既遂もありうるうつ病には、ぼんやりドグマチールとか処方しておられない。

 

ドグマチールが良くない点として、女性の月経を乱すことと、肥満が挙げられる。たいしてうつに効かないのもちろんある。ドグマチールは併用してレキソタンなどを出したくなるので、そこもあまり良くない点である。ドグマチールは抗うつ剤とはみなされず、吐き気を伴う神経症には多少は良いかなと言ったところである。

 

興味深いのは、いろいろなSSRIやSNRIなどでこじれて良くない状態の人にドグマチールを処方し、かなり良くなる人が存在すること。こういう人は、SSRIやSNRIはむしろない方が良かったのである。したがって、ドグマチールはないよりはある方が遥かに良い(発売中止は困ると言う意味)

 

〇アモキサン

3環系のパワーがある抗うつ剤。アモキサンは力の出方がトリンテリックスに似ているが、吐き気の副作用がほぼ出ない。効果の出現は比較的早く、良い悪いが早く判断できる。必要な用量はかなり個人差がある印象である。

 

〇ルジオミール

これは4環系抗うつ剤だが、効果的にリフレックスよりやや上に見える。しかし差は大きくない。ルジオミールは、眠さ、体重増加、てんかんに使えないなどの難点があるので、現代社会ではまだアモキサンが処方しやすい印象である。吐き気はほとんど出ないように見える。吐き気があり疼痛を伴ううつには、アモキサンよりルジオミールが効果的である。

 

〇レキサルティ

レキサルティは抗うつ剤ではないが、エビリファイ的な抗うつ作用を持ち、しかも大抵の人でエビリファイより良い人が多い。またレキサルティを併用することで他の抗うつ剤の嘔気を和らげる作用を持つ。初診時からレキサルティを少量(0.25㎎程度)を始めると、数日後(たいてい4日後くらい)、実感が改善する。初期に患者さんを幻滅させない選択肢としては悪くない。なお、0.25㎎では効果も副作用もほとんどないという人もいる。しかし0.5㎎では明確に病状が悪化、特に不眠、焦燥が悪化する人がいるため初期の用量は重要である。抗うつ剤の導入局面にレキサルティを使うといったところである。

 

〇ガバペン

ガバペンは疼痛に有効で、穏和な抗うつ作用を持つ抗てんかん薬である。単独で投与できない(主となる抗てんかん薬との併用)。現代的な抗うつ剤が吐き気で使えず、リフレックスが何らかの副作用で使えず、旧来の抗うつ剤(アモキサン、ルジオミールなど)も副作用で到底服用できないような人は、仕方なくガバペンなどを使う。ガバペンはカタトニアにも治療的なので、劇的に効きはしないが色々便利である。ガバペンは、ドグマチールで多少は良いと言うくらいの人には十分戦えるレベルの作用は持ち合わせている。もちろん、重いうつ状態には効果がない。

 

吐き気があるが急速にうつを改善しないとこの人は死ぬと言うレベルの人がいる。アモキサンやルジオミールが副作用で使えない人は、SSRIとトリンテリックスを避け、家族と本人によく説明してサインバルタを使う。(自分の場合)

 

他、点滴ではアナフラニールも良いが、薬に弱い人はアナフラニール点滴で普通に嘔気が出る。しかし、アナフラニール点滴はその日に効果が出るため、SSRIやトレンテリックスのようにその日に効果が出ず、単に嘔気を悪化させるだけの薬よりは遥かにマシだと思う。

 

初期に信頼関係を失わないことが重要だと思われる。よく薬について説明しておけば、嘔気のあるうつ状態の人に、嘔気が出る抗うつ剤も処方できないわけではない。

 

参考