コロナウィルス感染拡大と精神医療について | kyupinの日記 気が向けば更新

コロナウィルス感染拡大と精神医療について

コロナウイルス流行時に精神医療でどのようなことに困っていたかを紹介したい。これは今も現在進行形で、緊急事態宣言が解除されてもしばらく大きくは変わらないと思う。

 

〇他科受診をさせにくい。

単科の精神病院の入院患者は、精神科以外の診療科には個別に受診してもらっている。例えば、歯科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科などである。

 

市内で新規感染者が出ていると、容易に受診させられない。現在の精神病院の入院患者は高齢者が多く、院内で新型コロナ感染者が出ると大変なことになるからである。

 

なお、もし感染者が出た場合、肺炎患者さんは精神病院内で診てほしいと要請が出ており、どこの部屋(例えば母屋から離れた建物)を使おうかと話し合っている。

 

〇面会がほぼできない。

外部の人が病院に入ると感染リスクがあるので面会はほぼ禁止である。うちの病院ではガラス越しに面会してもらっていたが、これも1Fだけである。ベルギーでは特別な自動車(はしご車のようなもの)で、家族が3階や4階の病室患者にガラス越しに面会しているニュースがあった。

 

〇ちょっとした外出ができない。

例えば、コンビニやディスカウント店で何か買い物に行くなどである。これも万一のリスクを考慮している。ちょうど衣替えの時期で、冬に入院した人は自宅に戻り衣類を持ってこなくてはならない。これは仕方なくPSW同伴で取りに行く。なぜ付き添いが必要かと言うと、どこかで道草するかもしれないからである。これらは銀行や役場に行く際も同様である。

 

実際、すぐ近所で(2~3㎞以内)に新規感染者が出ていたし、そのくらい警戒せざるを得ない。このような人権の制限は任意入院ではおかしいと言う人には退院を宣告し、今後、貴方は診ないと伝えた。

 

〇高齢者の施設見学ができない。

入院患者で特に認知症などでは、家に帰ることができず施設入所させるケースがあるが、施設見学を断られているため話が進まない。これはお互い様で、こちらも見学させたくないし、あちらも来てほしくないといったところである。

 

このように退院がスムーズにいかなくなると、入退院が滞った状態になり、あっというまに満床かそれに近い状況になる。その結果、他の入院させたい患者さんを入院させられなくなるのである。

 

〇輪番患者は相当に怖い。

うちの病院で熱発者は外来玄関から入れないことになっているが、夜間輪番だと、時に警察官が連れてくることもあるし、その新患が熱発していても診ざるを得ない。深夜に来て38℃以上あった人には参った。(結局、嫌だけど入院させた。保護室レベルだったため。)

 

この人は、クラスターが出まくっていた大都市から帰郷したばかり(4日目くらい)だったのである。もしその患者が感染者でかつスーパースプレッダーだったら、うちの病院は滅んでいたと思う。

 

〇認知症の人の病状が更に進行する。

これは家族に面会できないのが相当に痛い。2月から面会できていない認知症患者さんは家族がわからなくなってる人もいると思う。

 

〇外泊のトライができない。

中期的な入院(2か月~半年くらい)の人は数回、家に外泊してもらって家でそつなく生活できるのか試みたいものである。家族に接するリスクを考えると、院内の面会を断っているのなら、外泊は良いというわけにはいかない。そのようなことから、いきなり退院というある意味、乱暴な処遇になる。入院していつもしばしば外泊、外出をする人も今回は我慢してもらっている。

 

〇患者さんの身体科への転院が容易でない。

これは本人がどうとかではなく、家族が遠方(具体的には東京とか大阪)にしかいない場合、相手方の病院は、できればその家族に来県し病院に来てほしくないようなのである。その家族が感染者というわけではないが、遠方から交通機関を使ってくるだけでリスクがある。つまり、本当に切迫している以外は話が進まない。

 

〇警察官に病院内に入ってほしくない。

患者さんによれば、入院前に起こした事件などの捜査のため、警察官が調書を取りたいと希望するケースがある。しかし警察官はさまざまな状況で仕事をしているので、自宅で自粛している人たちに比べ感染リスクは高い。実際、警察署でクラスターが起こったなどのニュースがある。

 

今の環境で数名の警察官が病院に来て本人と面会し調書を取るなんて耐えられない。このような場合、本人の精神面が思わしくなく、今は面会は無理と伝えておく。緊急事態宣言が解除されたので、そろそろできるかも?と言ったところである。

 

ちょっと今思いついたものを挙げてもこのくらいある。精神医療はコロナ肺炎流行とは無縁ではなく、日常診療は常にストレスフルである。