認知症と音刺激について | kyupinの日記 気が向けば更新

認知症と音刺激について

認知症の患者さんの進行の程度には個人差がある。現在、認知症の進行を抑えるタイプの向精神薬が発売されているが、これらは根本治療ではないので服用し続けたとしても、いずれは認知症は重くなる。

 

だからといってこれらの薬は無意味ではなく、認知症の進行が遅れた年数はその患者さんにとって有意義なものになるだろう。その理由はその数年が有効に使えるからである。

 

認知症は60歳代前半でもかなり重篤な人たちを診る。例えば自宅の中にあるトイレに行きつけないとか、トイレでウォッシュレットの扱い方がわからないなどである。このような人は家庭で生活する際には、家族の誰かが四六時中診ていないといけないため、介護の疲労も大変なものだ。介護者が体を壊すレベルである。

 

認知症の進行状況には謎が多い。内服薬は一見、無意味に見えても、何らかの効果が見えるなら有用である。例えば物忘れは全然変わらないが、夜よく眠るようになったとか、興奮や徘徊が減ったなどである。もし何らかの治療で興奮状態や不眠などの随伴症状が減ったとしたら、介護者の疲労を緩和するなど総合的には意味がある。また、随伴症状が減少することは、認知症の本質的進行を遅らせる要素でもある。

 

認知症は当初、少しだけ物忘れに気づかれるようになってから、それ以上あまり進行しないように見える人たちがいる。またもう少し重いレベルでも、一定の水準で数年留まる人たちがいるので、認知症の疾患、病型だけでなく、その人の生物学的特性(個性)、家庭ないし施設環境など環境面の影響も大きい。逆に、それらの環境など関係なくかなり早いスピードで進行するタイプもある。

 

ある時、常時、独語がある統合失調症の患者さんと同じ病室の患者さんがよくトラブルを起こしていた。

 

独語がある統合失調症の患者さんは会話ができないので、文句を言ったとしても何も伝わらない。またその統合失調症の患者さんは暴力的ではないので、文句を言われたとしても何の反応もなかった。

 

そのようなことから、大声で文句を言う患者さんの怒声がむしろ問題だったのである。その人は統合失調症でも躁うつ病でもなく認知症ではない器質性疾患であったが、年齢相応の物忘れなど認知症症状は診られていた。この言い方は少しおかしいが、診察時は普通にやり取りができ、一見、認知症がわかりにくいレベルであった。

 

ある時、あまりに苦情があるので、統合失調症の患者さんを移床させたのである。その後、周囲はかなり静かになった。

 

ところがである。周囲が静かになったとたんに、その人の認知症が大きく進行し始めたのである。これは日中の刺激が減ったことと関係があると思われた。

 

老人向けのデイサービスの音楽プログラムで、どのような音楽が認知症を抑制するかと言う調査が行われたことがある。その結果だが、クラシックのような音楽は抑制的ではなく、太鼓やシンバルなどむしろ騒々しいタイプの音楽がむしろ抑制的だったのである。

 

これは最初の事例の流れを診ると、なるほどと思う結果である。