レキサルティとエビリファイの低用量での振る舞いの相違 | kyupinの日記 気が向けば更新

レキサルティとエビリファイの低用量での振る舞いの相違

エビリファイはうつ状態に使う場合、抗うつ剤と併用し少量で処方される。これは少量でのドパミンライクな作用を利用している。エビリファイの少量(エビリファイ11.5㎎)は老人や忍容性の低い人たちでもD2遮断的ではない。

 

レキサルティも少量では抗うつ的に作用するが、エビリファイよりD2遮断的に作用するといった相違がみられる。(レキサルティ0.25から0.5㎎)

 

患者さんの症状を仔細に観察すると薬理作用の相違がよくわかる。

 

例えば慢性的なむかつきのため食事も満足に摂取できないうつ病の老婦人がいた。彼女は嘔気のためSSRIが服用できなかった。彼女の症状は、嘔気、食思不振、頭痛、不安感、動悸、肩こり、下痢ななどに加え時にパニックが起こっていたと言う。

 

脳神経外科から紹介された際、既にサインバルタが20㎎だけ処方されていたが、全く改善がなかったらしい。ただし紹介状の内容からはサインバルタはうつ状態というより、疼痛に対して処方されていたようである。

 

治療当初、サインバルタを40㎎くらいまで増量してみたが、忍容性の低さから発熱するありさまだった。ジプレキサの少量も食欲不振によさそうだが、1㎎程度でも服用感が良くないという。向精神薬を使ってもさほど良くならず、放置したらもっと良くないといった状態である。

 

このような病態に従来の薬で有望なもの

○ジプレキサの少量(0.6251.25㎎)

食欲増加に加えうつ状態の改善も見込める。疼痛へはさほど治療的ではない。

 

○ドグマチール(100㎎前後)

ドグマチールはジプレキサに加え食欲増加の作用がかなり弱い。リエゾンでは既に処方され失敗しているケースを良く見る。またうつ状態や疼痛への効果も弱い。

 

○リリカ(25㎎~75㎎)

疼痛、全身倦怠感に対し治療的(過去ログ参照)。食欲に対してもよい。うつ状態への効果はなくはないが、ジプレキサに比べ弱い。

 

○補中益気湯

食欲不振、体力低下、全身倦怠感などに定番の漢方薬だが、このレベルの病態ではほとんど効果がないことの方が多い。リエゾンでは既に失敗している。またこの薬はうつ状態への効果はほとんどない。

 

○セロクエル

このレベルだと、食欲改善の効果はそこまでない。量を増やしすぎると血圧が下がるなど、かえってマイナス。高齢者では他の薬が合えば中止すべきである。うつ状態への効果はジプレキサに劣る。

 

○エビリファイの少量

この病態ではあまり効果的ではないが、多少は賦活することもあるので一考である。高齢者ではこの量でも副作用が出やすい。また食欲を改善するケースがほとんどない。疼痛には効かない。

 

○リスパダールのごく少量(0.25mg前後、人により0.5)

糖尿病などがありジプレキサやセロクエルが使えない人で一考。リスパダールの少量は賦活的に作用する。良い人では食欲が出る。疼痛には効かない。

 

○リフレックス

精神科のリエゾンではこの薬で失敗している(つまり無効)の人ばかり紹介されるためいかにも非力に見えるが、薬理作用的には有望である。うつ、食欲不振、不安感には有効。疼痛にも多少は良い。

 

ある時、極端に悪化した時期があった。38度まで発熱し自宅で生活できないと言う。そこで入院させ、従来とは異なる治療を試みた。

 

レキサルティの少量は賦活的に作用し、かつD2遮断的である。従って忍容性の極端に低い老人では、0.25㎎でもパーキンソン症候群で動けない状態に陥る。エビリファイはこれがない。エビリファイは少量ではドパミンライクであり遮断性はほとんどないように見える。

 

そのようなことから、このうつ病の婦人にはレキサルティの少量は有望である。

 

レキサルティ 0.25

マイスリー  5

 

という処方を試みた。すると予想通り、嘔気、食欲不振が消失したのである。長く続いていた嘔気がなくなり下痢も改善したらしい。レキサルティの少量はイリボー的である。嘔気がなくなったことから、食欲も上がりおかわりもできるほどになったという。また著しい疼痛も比較的改善していた(レキサルティの少量は疼痛に関しては改善がないことの方が多い)

 

このような際、患者さんは薬を増やしてほしいと言うことが多い。ここが落とし穴でレキサルティの0.25㎎~0.5㎎と1㎎以上ではかなり薬理作用が異なるため、特に忍容性が低い人では増やすと悪い結果になる。この人の場合、せいぜい0.5㎎までである。

 

結局、この人には抗うつ剤や抗不安薬は必要がなかったのである。その理由は、レキサルティは抗不安作用もけっこうあることも大きい(ここもエビリファイとの相違)。

 

レキサルティ0.25㎎程度でパーキンソン症状で動けなくなる人がいる理由だが、レキサルティの少量ではD2遮断作用とセロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用のバランスが崩れるのではないかと思う(私見)。つまり、少量ではセロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用が不足するのであろう。

 

この老婦人は今は普通に動けるようになり仕事を始めている。本人によれば安易に仕事を引き受けてしまうので、後が大変と話していた。