落ち着いてくるとそれまで見えなかったものが見えてくる | kyupinの日記 気が向けば更新

落ち着いてくるとそれまで見えなかったものが見えてくる

このタイトルは少しわかりにくいかもしれない。見えなかったものが見えてくるのは精神科医ではなく本人である。精神科治療で特に高齢者では、

 

この人はひょっとして、精神科にかかる以前より良くなっているのは?

 

と思うことがある。これは治療以前より良くなることは普通にあるのでは?と思うかもしれないが、今回の記事はそのような単純なことではない。

 

これに似たことが過去ログでも何度か出てくる。検索できないが、あるうつ病の高齢の男性を入院させて治療していたところ、ある日突然呼ばれた。その男性が兵隊にとられていた時の上官がいかに立派だったなど、自分に説教するのである。これは老年期のうつ病から来る不機嫌からくるものか?と思った。

 

その後、彼は治療を終え退院し今も通院している。年齢はもう100歳を超えているかもしれない。息子さんによると、その男性患者さんは過去のいかなる年齢時より今の方が温和で優しいという。ゆっくり話ができるようになったらしい。使っている向精神薬はセロクエル25㎎だけである。このパターンこそ「この人はひょっとして、精神科にかかる以前より良くなっているのは?」である。

 

また、何十年もデパスだけ飲んでいた統合失調症の患者さんにジプレキサを処方したところ(30年間デパスだけ飲んでいた人、リターンズ)、

 

あんなに穏やかな母親は見たことがありません。

 

と息子さんが話した記事がある。しかし、この2つの話はかなり異なる。後者は息子さんの子供の頃から統合失調症というメインストリームと言える精神病が存在しており、単に未治療のままだったからである。一方、前者は例えば70年前からうつ病が続いていたとは考えられない。(その後の職歴などを考慮すると)

 

最近、前者のパターンを経験した。彼はやや変わった性格で付き合いにくいタイプだったかもしれない。今回一連の治療を終え、明らかに治療以前(発病以前)より、いろいろな面で良くなっている。家族に面会後に聴いたところ、やはりそのようなのである。彼は40年以上前より明らかに良くなっている。この良くなっているという内容だが、話が穏やかにできるとか、怒りっぽくないとか、こちらがちょっとしたことで気を遣わずに済むと言った感じである。

 

本人に話を聴いてみた。彼は、

 

落ち着いてくるとそれまで見えなかったものが見えてくる。

 

と語ったのである。これら3つの話は精神科において「どこまでが精神疾患なのか?という問題」について、むしろ謎を深めていると思う。

 

ヒトの精神が年齢を経てある危機や破たん状態に至った後に、何らかの治療を経て、ある壁を破り新しい精神状態に移行するのかもしれない。