ジプレキサによるランダムな着想の減少 | kyupinの日記 気が向けば更新

ジプレキサによるランダムな着想の減少

今回は、「中高年の統合失調症の人たちの薬物治療(後半)」の続きである。

 

ある時、70歳くらいの統合失調症の婦人を外来治療していた。彼女は自分が主治医になって以降、入院がないものの、寛解までは至らず統合失調症による崩れがあった。狭義の幻覚妄想はなく自宅アパートで暮らしていた。毎月、訪問看護をしており、たまにデイケアに参加する。

 

薬は定型のセレネース(ハロペリドール)9㎎のまま変更していなかった。それは長く入院がないこともあるが、毎週スポーツジムに通いトレーニングをしているなど、それなりに安定していたからである。また、セレネース9㎎もとてつもなく多い量ではないこともある。

 

ある時、看護スタッフから、もう少しなんとかならないものか?と言う話になった。それは風呂に毎週2回しか入らないとか、不安感があるのか何度も同じことを相談に来るとか、人格的にバタバタしていると言うのである。また、とりとめもない電話が多すぎて家族が辟易しており、あまりに酷いためついつい叱ってしまうと言う。

 

そこで、セレネースからジプレキサ(オランザピン)に変更することにした。それは第一感ではジプレキサがよさそうだからである。また、最初はセレネース9㎎にジプレキサ5㎎を上乗せしている。

 

追加処方して1週間目、なんとなく表情が和らいだようで良い感触があった。そこでそのまま切り替える方針とした。しばらくしてセレネース3㎎+ジプレキサ10㎎の処方になった。

 

外来では荒々しい喋り方が消失しており、穏やかに話せるようになった。声の大きさも前よりいくらか小さくなっている。そして、外来診察室で驚くようなことを話したのである。

 

彼女によると、今の薬は、「何か思いついて話そうとした瞬間に消える」というのである。そのような経緯で家族へのとりとめのない電話(家族が叱りたくなるような内容)が激減したのであった。

 

また、長くすることがなかった編み物も自宅で編むようになった。色々な点で生活に女性らしい繊細さや潤いが出てきたのである。

 

本人によると、ジプレキサは全く服用感がないらしい。セレネースは薬を飲んでいるという感じだったが、ジプレキサはそれがない。眠りの質も良くなったと言う。

 

デイケアの場面でも、特定の人に対するこだわりのようなものがなくなり付き合いやすくなった。(特定の人とトラブルになるとか避けるなど)笑顔もずっと増えた。

 

妄想知覚とか妄想着想といった精神科用語があるが、彼女の場合、単に着想が激減しているように見える。ランダムでバラバラな着想というか気付きである。顕現性とも関係すると思うが、それがセレネースのようにD2レセプターに強い親和性がある薬ではなく、節操がなく色々なレセプターに関わるジプレキサの方がこの部分を改善していることは非常に興味深いと思った。

 

着想はいかにもD2レセプター的であるが、それだけではなく複雑な脳内の過程があることを示唆している。

 

また、彼女の精神病がバラバラに吹き上がる着想までに留まり、明確な幻覚や妄想にまで至らなかったことが最低限の社会性を保ち、長期に入院加療にまで至らなかったことと大いに関係している。

 

彼女は結局、ジプレキサ1015㎎でコントロールし、もはやセレネースは使っていない。また併用していたヒベルナ、アーテンも一掃できたのである。

 

参考

中高年の統合失調症の人たちの薬物治療(後半)

瞬間的顕現性思考は妄想なのか?