ちょっと消極的な対応 | kyupinの日記 気が向けば更新

ちょっと消極的な対応

ここでいう「消極的な対応」は「保守的な対応」とは少し意味が違う。僕は入院患者について入院の翌日か翌々日くらいにナースルームで短いカンファレンスをしている。その際、その日の病棟看護者に加え、OTPSWも参加できる人は加わる。従って病棟全員が参加するものではない。

 

ある日、これは「ちょっと消極的な対応なんですけどね。」と言った後、「消極的な対応」とはなんだろうと思った。おそらく消極的な対応とは、

 

  1. ある治療をしたためにかえって悪くなったりしない。

  2. 副作用をできるだけ避ける。

  3. 現状維持。

  4. 短期間の治療が前提。

 

などだと思う。つまり、積極的な治療とは言えないものである。逆に積極的な治療とは、

 

  1. 少々の副作用は覚悟し短期間の収束を目指す(特に薬物療法)。

  2. 劇的な改善を目指し、ECTなどを実施する。

  3. リスパダールコンスタやエビリファイLAIを使う。

  4. 適応外処方、あるいは海外で発売されている薬も視野に入れる。

 

などであるが、実質は1が多い。

 

ずっと以前の記事にあるが、どのような方針で臨むかは、どのような家族なのかが関係する。例えば、到底ECTなどが提案できそうにない家族もいるからである。

 

「消極的な対応」で十分に思えるとき、それは消極的な対応といえない(これは通常運転)。どうみても消極的にしか治療を行えないケースは以下のような人たちである。

 

  1. 現在、ある精神科病院で治療中であり、たまたま輪番日に自分の病院に入院し、数日以内に従来のかかりつけに戻る。

  2. 向精神薬を投与すること嫌う家族。(これは精神症状の内容にもよる)

  3. 副作用が出やすい過敏な人。(今後の信頼関係にかかわる)

 

新患でも自分のことがよくわかっている患者さんは、いかなる方針でも苦情が出にくいので治療が進めやすい。よくあるのが、既に本人が軽快しその遠方の家族や友人がうちの病院に受診したケース。たぶん、本人が家族や友人によく話をしているからだと思う。

 

民間精神科病院で無条件で積極的治療ができるのは措置入院である。その点、任意入院と医療保護入院は実質的に同じようなもので大差ない。治療者の構えとして、措置入院とそれ以外の入院形態は大きな相違がある。

 

カンファレンスで「これは消極的な対応なんですけどね」と話した時、「こういうことを言う時は、言わざる得ない背景があるよなぁ」と思った。

 

その理由は、看護者に「院長は何を考えて、こんなの出しているんだろう?」と思われかねないからである。少なくとも、必死に快方に向けて治療しているようには見えないと思う。

 

一方、時に外来レベルの軽い患者さん本人に、「消極的な治療」や「積極的な治療」の話をすることがある。これは局面的に、薬をあまり変えず、そのまま診た方が長期的は良好な経過になると思えるとき。

 

なかなか良い例が見つからないが、例えば、この時期、春先でいくらか病状が不安定になり、しかし薬を変更するまではないと思えるときなどである。なぜこれが消極的なのかというと、軽度の悪化が明確なのに何もしないから。

 

これは毎年、この時期23週間は悪化が診られるが次第に改善してきたという経過がはっきりしており、その度に薬を変更していると、薬が増えるだけだからである。消極的な選択肢は、その患者さんをよく知っているからこそできる。(その人の忍容性を含め)

 

あと、外来患者さんのコミュニケーション能力にもよるが、「これは積極的な治療」とか逆に「消極的な治療」であると言うのを言っておいてほしい人たちもいる。その方が、その治療の経過や結果が共有できるというか、その後の治療関係にも影響を与えるからである。

 

つまり、ある理由があって消極的治療を続けている時、なぜそうなのか知らせていないと、「先生は何を考えているんだろう」などと、治療方針に疑念を抱くこともある。

 

結局、逆説的だが、治療には積極的も消極的もなく、どちらがより良いと言った風には片づけられない。それは、精神科治療の1つの合理的な方針、治療の1局面と見ることもできる。

 

参考

治療方針を聞きたい