神がかり的に良くなること | kyupinの日記 気が向けば更新

神がかり的に良くなること

過去ログに、ジプレキサで奇跡的に良くなるのは、神がかり的とは言わないと記載している。

 

ジプレキサの奇跡的な効き方についてから、

 

たぶん僕が彼のことを知らなくて、偶然町で出会って話をしても、今なら統合失調症だと見抜けないと思う。この患者さんの治り方はすごいが、こういうのは神がかり的とは言わない。なぜなら、ジプレキサを処方すれば誰がやってもこうなっているから。優れた薬物は、同じようなやり方で、たくさんの人の治療ができるのが良い。

 

といった記事を読んでいて、神がかり的とはどのようなものを指すのだろうか?と考えてみた。過去ログにはそれらしき経過がいくつか紹介されている。例えば、ヒルトニンの記事に出てくる男女2名。

 

ほか、育児ストレスによる精神病状態から始まる一連の記事の女性。この人は薬をやめた後、1度も再発がない。昨年暮れくらいに病院に挨拶に来られた。

 

それ以外だと、アトピーによる精神病状態 。この一連の記事の女性もその後、再発がない。

 

過去ログに記載がないものでは、もう少し根拠が曖昧で治療法も変わっていて記事になりにくかったものもある。

 

例えば、これはもう15年以上前の話だが、ある女性も劇的を通り越して神がかりと言って良い治療経過であった。その女性患者さんは、約1年半、老人ホームでいつも奇声を上げており話もできない状態だった。

 

彼女は見かけ上、認知症であるが、検査ができないのでその規模のスコア化もできない。むしろ何らかの精神病状態と言って良いが、内容が不明なのである。また何らかの抗精神病薬も使われたことがあるが効果がなかったらしい。

 

その女性の家族と老人ホームの職員が本人を同伴し初診し、病歴を聴取したところ、1つだけ重要な事件と思われるものがあった。それは、あるいは関係がないかもしれないが、どうもその事件が今回の精神病状態に関係しているように自分には思えたのである。

 

それは彼女が帯状疱疹になり、その後に急激に精神病状態ないし認知症が悪化していることである。そこで既に帯状疱疹の所見は消えているが、もう一度、しっかりゾビラックスを投与することにした。なにしろ1年半も経っているので、ダメ元も良いところである。

 

ゾビラックスは200㎎錠と400㎎錠があり、帯状疱疹には1回800㎎を1日5回服用する。あのばあちゃんに、なんと1日4000㎎も投与するのである。(とはいえ、彼女はまだ老人としては若い方だった)

 

家族にはゾビラックス(ジェネリックのアシクロビル)はアメリカから個人輸入できるので、インターネットで購入の仕方を教えた。アシクロビルは当時、400㎎錠が日本円で50円ほどで買えた。だから4000㎎服用したとしても1日500円しかかからない。またこの薬の性質上、また今回の増悪の状況や経過を見ても、2週間投与して結果が出なければ、それ以上治療するのはあまり意味がないように思われた。

 

まさに短期決戦である。このような奇妙な治療法を思いつくのは、それまで救急の場面でヘルペス脳炎の診断経験があったからこそで、ゾビラックスを使ったことがない人には到底、思いつかないものだと思う。

 

この結果だが、このおばあちゃんは魔法が解けたように普通の人に戻ったのである。まず家族が驚愕したし、老人ホームの職員も何が起こったかわからず、呆然としたそうである。

 

老人ホームを退所する日、本人は自分で荷物をまとめて、家族が車で来るのを待っていた。

 

ところが家族の到着が15分遅れてしまった。家族がやっとホームに着いた時、彼女の言葉は、「15分遅い!」と文句を言ったらしい。

 

家族はそのような口調が、以前の彼女の性格そのままだったので、思わず涙が出たという。

 

神がかり的というのは、単にジプレキサとかエビリファイを投与して良くなるとかではなく、その改善の軌跡に何らかの物語性が必要だと思う。

 

こういうのを真の神がかり的と呼ぶ。

 

この話には続きがある。

 

参考

ヘルペス脳炎

 

(ボツ原稿から)