リーマスとNNT(Number needed to treat) | kyupinの日記 気が向けば更新

リーマスとNNT(Number needed to treat)

あらゆる科の治療薬には効果だけでなく副作用もある上、ごく一部の人には死に至るような重篤な副作用も存在している。その点で、デメリットのみ強調するマスコミなどの記事が出ると、薬は意味がないと言う議論になりやすい。

薬にはNNT(Number needed to treat)という概念があり、「治療必要例数」と呼ばれている。これは言い換えると、1人をあるエンドポイントから救うために何人を要したか?というもので、一般的に小さいほど効果が高いと言えるが、重要かどうかの吟味はエンドポイントの内容にもよる。

もし想定するエンドポイントが死亡などの重大な結末で、医療費も膨大に要するものであれば、NNTの値が高かったとしても、意味があるといえる。これは医療経済的なものも大きく関係しており、例えば海外のように民間による保険制度の場合、NNTが著しく大きく、またエンドポイントが重篤とは言えない場合、保険金の支払いを拒否されるケースもあると言う。

リーマスは、中等度から重度の躁病に効果が高い。これはリーマスの適応では最初に出てくるが、このNNTはモーズレイのガイドライン(12版)によると6である。(以下のNNTのスコアはモーズレイのガイドラインの資料に沿っている)

リーマスには双極性障害の予防にも処方される。この場合、リーマスは躁病の再燃の回数とその規模を小さくする効果があると言われている。躁病の再燃のNNTは10である。

また、リーマスは一見目立たない(つまり効かない)ように見えるかもしれないが、双極性のうつ状態の再燃にも効果を持ち、このNNTは14である。つまり、躁病の再燃ほどの効果を持たないが、躁、うつともスコア的には悪くないと言える。

その理由は、双極性の躁状態もうつ状態も、その人にとって社会的及び金銭的、あるいは時間的損失が膨大だからである。また自殺のリスク軽減の視点でもメリットは計り知れない。

双極性障害の自殺率は15%と推計され、臨床試験のメタ解析ではリーマスは双極性障害の自殺企図と自殺未遂のリスクを80%減少させたと結論している。また、大規模データベース研究では、リーマスは他の気分安定化薬、デパケンR、テグレトール、ガバペンよりも自殺既遂への効果が大きいことが示されている。

たまに転院してくる患者さんに、未だかつて躁病エピソードがないのにもかかわらずリーマスが追加されている処方を診ることがある。これは、本人からその意図を聴くことができないことも多い(主治医が説明していないため)。

こちらがリーマスの意図を推測するわけだが、おそらく単極性うつ病に対する抗うつ剤の増強療法として、リーマスが追加されていると思われる。

標準的な抗うつ剤で治療し効果が得られない場合、リーマスを追加する増強療法が推奨されている。最近のメタ解析では、プラセボに比べ3倍の効果があり、NNTは5だったという。

リーマスは、本格的な躁病を抑えるには、過去ログにもあるように血中濃度が極めて重要である。これだけは間違いない。難治例では、まず中毒域ギリギリまでコントロールすること。

最近入院させたある女性患者さんは、リーマスの血中濃度が1.05とかそのレベルでやっと安定していた。0.9とかそのレベルでは全然と言ってよいほど効果がみられないのである。検査センターにもよるが、1.05はHのクレジットがついていることがある(1.00までを正常域としているため)。

参考
抗うつ薬はうつ病の重症度に関係なく効く(という論文)
1.01の人
治験時の条件の良い症例