幻聴が物語的に改善する | kyupinの日記 気が向けば更新

幻聴が物語的に改善する

今回の話は典型的な経過ではないことを最初に言っておきたい。

普通、幻覚が改善する際に、それを言語化できる人が多い。簡単な表現では、

「今は聴こえないですね」

とか、

「夕方に少し聴こえるくらいです。聴こえ始めても1時間くらいになりました」

などである。

統合失調症の人はそんな風に言っているのに病識が出てこないのが不思議なところ。だから、治癒ではなく寛解と言われるんだと思う。(基本的に統合失調症は真の病識はない)

しかし、そういうパターンではなく幻覚エピソード全体が物語的に改善する人がいる。

例えば、「ソ連が攻めてくる」とか「中国人に襲われる」とか、いかにも荒唐無稽な内容の幻聴で、

「今はソ連は撤退すると言っています」

などと言い始める。どうしてわかるのかと問うと、

「元帥がそういう風に言っている」

などの返事が来る。また幻聴がかなり減っているとは言うのに、内容が妙に具体的で、話の流れがしっかりあるのである。(人によると、聴こえてくるが、内容まではわからないと言う人もいる)

しかし、ソ連が撤退すると言う連絡を受けると、不安感や動揺がかなり改善する。それは表情もそうだし病棟内での行動も落ちついたものになる。例えばテレビなど観るどころではなかった人が、ゆっくり座って観ているなどである。

それでもなお、「先生は私を病気と思っている」などと言っているので、この時点では病識が出てきたわけではない。

その患者さんはソ連が撤退したために、幻聴が大幅に減っていると言う解釈なのである。ロシアではなくソ連であることも含め不思議な解釈だと思う。

そういう経過だから病識が出現しないのかもしれない。

なおこの患者さんは自分の診断では統合失調症ではない。実に統合失調症っぽい幻覚だが、症状精神病か薬物性ではないかと考えている。(つまり広義の器質性疾患)

症状性なら完治もあるが、後者だと厳しいと言う見通し。

良く考えるとこのタイプの改善のパターンは、統合失調症の人ではあまりないことに気づく。

参考
統合失調症っぽくない妄想