急性躁病の薬物治療 | kyupinの日記 気が向けば更新

急性躁病の薬物治療

双極性障害の躁状態は、過去ログではセレネース液が最も即効性があり、効果も優れていると記載している。しかし、セレネース液はうつに効かないなど、一方向の作用しか持たず、躁うつのバイオリズムには関与しない。

躁状態を単に鎮静するのであれば、多くの薬物に有効性があり、近年は、躁状態には、最初から大量のエビリファイを投与する方法も推奨されている。

エビリファイは元々、鎮静的とはいえない薬なので、用量的にかなりの量を投与しなければならないのが難点である。またその場合、医療コストも高くなる。セレネース液は、意外に少量で効くこともあり、コスト的に安価なのも良い。

定番のリーマスは時間がかかりすぎるのが難点だが、他の即効性のある薬物も併用するなら、最初から使っておくのは推奨される。「急がば廻れ」と言うのはこのことである。長期的には、双極性障害はリーマス主体に治療することが多いこともあり、処方を整え、治療期間を短縮させることも多い。

リーマスを使わない場合、双極性障害は多剤併用になりやすい面がある。

最近発売されたジプレキサの筋注製剤は、鎮静的といわれているが、1アンプルでも2アンプルでも更に躁状態を煽ってしまうような人が存在する。だから、ジプレキサの筋注がセレネース液より優れているようには見えない。(注;ジプレキサは躁病にも適応があるが、筋注製剤には躁病の適応はない)

WFSDP発表、急性躁病のガイドライン2009
○リーマス 
エビデンスレベルA
推奨レベル2

○デパケンR
エビデンスレベルA
推奨レベル1

○テグレトール
エビデンスレベルA
推奨レベル2

○セレネース
エビデンスレベルA
推奨レベル2

○ジプレキサ
エビデンスレベルA
推奨レベル2

○セロクエル
エビデンスレベルA
推奨レベル2

○エビリファイ
エビデンスレベルA
推奨レベル1

○リスパダール
エビデンスレベルA
推奨レベル1

○コントミン
エビデンスレベルB
推奨レベル3

○パリペリドン
エビデンスレベルB
推奨レベル3

○クロザリル
エビデンスレベルC1
推奨レベル4

○ラミクタール
エビデンスレベルE
推奨レベル- 


WFSDP=World Federation of Societies of Biological Psychiatry

エビデンスレベル
A;コントロール試験におけるフルエビデンス
B;コントロール試験における限定されたフルエビデンス
C1;コントロールされていないナチュラリスティックまたはオープン試験
C2;1つ以上のポジティブな症例報告
C3;専門家による見解
D;いくつかの試験での結果の不一致
E;ネガティブな試験結果
F;エビデンスなし

推奨レベル
1.エビデンスレベルAでリスク/ベネフィット比が良い
2.エビデンスレベルAでリスク/ベネフィット比が中程度
3.エビデンスレベルB
4.エビデンスレベルC
5.エビデンスレベルD

1型の躁状態に、主剤としてセレネース液またはセレネース筋注を使った場合、あまりにも急速に躁状態が反転し、うつ状態または躁うつ混合状態に至るケースがある。

これはリーマスのように、バイオリズムに即した穏和で、ある意味遅い効果の発現ではなく、バイオリズムを歪ませる側面があるからだと思われる(個人的意見)。だから、この方法では時に悪性カタトニア、つまり悪性症候群に至ることがあるのであろう。

一連のものではあるが、そういう経過になるリスクを孕んでいるのである。このリスクはリスパダールなどの、非定型でも古典的抗精神病薬に近いタイプでも同様である。

それに対しジプレキサは微妙だが、エビリファイは軽くシンプルな抗精神病薬なので、この悪性カタトニアが生じにくいのではないかと想像する(これも個人的意見)。

エビリファイが早期に効き、バイオリズムを歪ませたとしても、たぶんエビリファイはそういう薬物なのである。その点でリスク軽減の要因は、リーマスとエビリファイは異なっているような気がする。(リーマスやエビリファイで悪性カタトニアが全く生じないと言う意味ではない。)

躁うつ混合状態でドロドロな病態に対し、リスパダールやセレネースのような力価の高い薬物は感覚的に相当に使い辛い。その大きな理由は、上に記載したように悪性カタトニアに速やかに移行しかねないからである。この際、最も安全度が高く、効果も期待できるのはECTである。

このような病態では、自然なバイオリズムの振幅を軽減するように働くリーマスは、少なくともセレネースやリスパダールよりは使いやすく感じるのである。そこが、力価の高い抗精神病薬と気分安定化薬の相違であろう。その視点では、エビリファイは気分安定化薬とまでは言わないが、この2つの薬物群の中間に位置する薬物のように見える。

このブログ的には、悪性カタトニアも疾患の一連のものとして記載している。つまり、悪性カタトニアに至るのも(至りやすかったのも)、その人の疾患性の一面とみなしている。

このように考えてみると、確かにセレネース液はよく効くが、エビリファイの方がより洗練されていることがわかる。

上記を見てもわかるように、エビリファイ、リスパダール、デパケンRの3剤は選択肢としては最高のレベルにある。しかしながら効果の点で、臨床的にはA&2のレベルのものと大差ない。(と言うより、その人に合う合わないがそれ以前にある)

この3剤のうち、デパケンRは「妊婦または妊娠可能な女性に対しては第一選択薬として推奨されない」と言うクレジットがある。

また、リスパダール、リスパダール液、リスパダールコンスタは、日本では躁病への適応が取れていない。(セロクエルも同様である。)

上記のエビデンスは似たようなものが多いが、その水面下に個々の薬物に種々の特性があり、ランキングでは語りつくせないものがあると思う。

参考
悪性症候群の謎
興奮時のセレネース筋注とセレネース液の相違
セレネース液
エビデンスの序列
現代的双極2型と双極性障害の位相について