保護室で便だらけになる人 | kyupinの日記 気が向けば更新

保護室で便だらけになる人

統合失調症の患者さんのごく1部だが、特に病状が悪化した際に、体中、便だらけになる人がいる。

毎回、経過を診ていると、そうなる原因は、清潔・不潔がわからなくなるだけではないように見える。

たいてい、かなり病状が悪化しており、直前に保護室に入れられていることが多い。そして、保護室内で奇妙な不潔行為が出現する。もちろん、トイレや自室でそのような行動を取り、保護室収容というパターンもある。

病状に波がなく、いつもそうなってしまう人は更に稀だが、このレベルは統合失調症の荒廃状態と言える。

今回の人は、生涯退院できないレベルにあるが、いつも悪いわけではなく、調子の良い時は開放病棟でもやっていけそうに見える。実際に開放病棟に転棟させたことも過去にはある。

しかし、一般の人にはピンと来ないかもしれないが、精神病院の病棟環境には「精神に保護的」という点で、

閉鎖病棟と開放病棟は雲泥の差がある。

のである。彼の場合、「開放病棟のように守られていない環境」では速やかに悪化してしまう。だから実際には、退院どころか開放病棟すら無理である。

彼の診断は統合失調症で問題はないが、非定型病像を伴っている分、救われている部分がかなりある。年間でも数回しかそんな風に悪化しないからである。

病状が悪化すると言葉遣いが荒くなり、看護者への暴言や退院要求が増える。また、普段は言わないような妄想を語り始める。次第に亜昏迷模様になり、あまり動けない状態に至るが、行動がまとまらない上に、転倒なども生じるため、放置するのは危険である。

閉鎖病棟内でも、他患者に些細なことで絡むため、喧嘩になる危険性も高い。(そのままでは、実際に喧嘩になる)

そのタイミングで保護室に入れると、体中、便だらけになるのである。ただし病状の悪化の程度が軽い場合はそうならないので、必発ではない。

病状が悪化した際に、いかなる治療をするかだが、最も短期間に改善する方法はECTである。ECTを実施した場合、1回か2回で、速やかにその病態から脱出する。しかも、失敗がない。(今回は効かなかったと言うのがない)

ECTが非常に有効なのは、非定型病像であることが大きいが、カタトニアにはECTが非常に有効なことも関係している。

ECTをしないのであれば、セレネースとかトロペロンをしばらく筋注しておけば、時間がかかるが、少しずつ改善していく。しかし時間がかかる分、便だらけになるとか、保護室内で自分の爪を剥ぐなど自傷行為が生じるので油断できない。爪を剥いだ状態で便を弄るのは、極めて不潔だからである。

普通、精神病院では保護室に入れた時点で、それ以上、抑制しない。だから色々な行動はとれる状況にある。中では自由にさせるのは、いつも保護室内に看護者がいるわけではないため、保護室で身体を抑制する方が、かえって危険ということがある。

統合失調症で非定型病像を伴いここまで悪化する人は、カタトニアの状態ではパーキンソン症候群も増悪する。

そういう身体状況で継続して抗精神病薬を筋注すれば、嚥下や歩行を更に悪化させ、保護室内で転倒し脳挫傷を起こすなどのリスクも生じる。また状況によると、いわゆる悪性カタトニア(悪性症候群)に移行する懸念もある。だから、毎回、薬を増量して良くなれば良いといったものでもない。

このようなことから、精神症状の回復が早いECTは、合併症を防ぐ点でも意味が大きい。

一般に、非定型病像を伴う統合失調症の患者は、気分安定化薬を併用することが重要である。しかし、特にリーマスはこのタイプの人は振戦などの副作用が出やすい欠点がある。それでもなお、使わないよりはマシなことが多い。

2000年頃の処方
テグレトール   600mg
デパケンR    600mg
リーマス     600mg
プロピタン    400mg
ルーラン     48mg
アーテン     6mg
ヒベルナ     100mg
ユーロジン    4mg
ドラール     15mg
イソミタール   100mg
その他便秘薬、降圧剤など。


リーマス、デパケンR、テグレトールの気分安定化薬3点セットが入っているが、抗精神病薬はルーランとプロピタンだけである。抗精神病薬がかなり多いように見えるだろうが、換算値的にはそれほどではない。

このレベルの統合失調症の患者さんでは、よく抑えている方だと思う。この患者さんは、パーキンソン症状が出やすいため、強い薬はあまり使えないのである。特にリーマスが増やせないのが痛い。

また、悪化時にリスパダール液を使うと、パーキンソン症状やカタトニアをより悪化させるのでうまくいかないのである。

この処方では、周期的に悪化し、便だらけになる経過を防ぐことができなかった。良い時期もあるため、副作用が出るがまま増量するのも考えものなので、対処が難しい。

ところが、良い方法があったのである。

彼は、今は保護室にはたまには入るものの、酷い亜昏迷に至らず、何もしないうちに自然回復している。もちろん便弄りもない。

最近の処方
テグレトール   600mg
デパケンR    600mg
リーマス     600mg
リボトリール   3mg
アーテン     4mg
ヒベルナ     75mg
ユーロジン    4mg
ドラール     15mg
その他便秘薬、降圧剤など。
リスパダールコンスタ 50mg筋注 (2週間ごと)


リスパダールコンスタを50mg筋注することで、保護室に入る頻度がずっと減少し、悪化の規模も小さくなったのである。結局、抗精神病薬はリスパダールコンスタでまとめることができた。コンスタに移行して以来、ECTは必要がなくなったのである。

不思議に思うのは、過去にリスパダール内服では全然良くなかったこと。副作用が出るだけでなく、病状も悪化させていた。しかし、コンスタだと良いのである。また、コンスタによるパーキンソン症候群は、抗精神病薬の内服に比べずっと影響が少ない。この人は、高価でもコンスタを使う価値がある。

過去ログでは、リスパダール、リスパダールコンスタ、インヴェガは異なる薬に見えると記載している。

参考
リスパダールコンスタの継続と中止の目安