失声とレスキューレメディー | kyupinの日記 気が向けば更新

失声とレスキューレメディー

「失声」は転換性ヒステリーの1つの表現型であるが、精神科ではこれを主訴に初診する人はかなり稀である。

なおフロイトの症例では、転換性ヒステリーが良く出てくる。ヒステリーでもガンサー症候群に比べ「失声」は医師へのインパクトが少ない。失声の場合、家族に同伴されて初診するケースがほとんどである。

失声以外にこれといった所見がないパターンが多く、妙に精神症状は安定しているように見える。まるで精神症状がこのヒステリーに凝縮されているようである。だから、自分の場合だが、何らかの西洋薬を処方することは稀である。許されるなら、

放っておいたら、やがて声が出るようになりますよ。

と伝え、帰ってもらっても良いのだが、そういうわけにもいかないので、仕方なくレスキューレメディーくらいを勧める。

レスキューレメディーは不思議なことに失声に治療的であり、レスキューレメディーを勧めた5人中4人は2週間以内に魔法が溶けるように回復している。(5人と言うのは記憶の範囲。やや不正確かもしれない)

外来婦長さんに、(失声は)

1週間で良くなる人が多いですね。なぜですか?

と聴かれたことがあるが、「僕に聴いてもわからない」と答えた笑い話がある。本当にわからないのだから仕方がない。

放っておいても失声は回復すると思うが、真に放っておいた場合、1週間では改善しないと思うので、西洋薬や漢方も含め、使うとすれば、レスキューレメディーは悪くはないであろう。

バッチフラワーは何らかの向精神作用を及ぼしているようには見える。それは例えば、スターオブベツレヘムなどで「泣き続ける女性」になったりするためである。

これは過去ログで少し触れている。(リフレックスの悪夢とトピナ⑨から再掲)

外傷体験のある女性患者さんにバッチフラワーのスターオブベツレヘムを処方すると、とにかく診察中にさめざめと泣くようになる。入院中の患者さんでもそれは同じである。あれはあれで、治療的なんだと思うが、本人にとって極めて苦痛を伴うことのようには見える。

しかしトピナはそういう心への関わり方はしない。トピナは「右から左へ受け流せるようになる」ことで、過去の問題を苦痛なく次第に減弱させていく。

つまりだ。スターオブベツレヘムは精神療法的だが、トピナは固有の薬理作用をベースに効果を及ぼしている。ただ、トピナは決して服用しやすい薬ではないので服用できない人がいるだけである。スターオブベツレヘムはいったん過去に戻って反芻し、トピナは前向きに発展していくスタイルともいえる)。


何も反応がない人がいるが、それも1つの重大な精神反応と考えている。

ただ、自分の場合、初診からレスキューレメディーなどサプリメントを勧めることは滅多にない。こういうのを勧めすぎる精神科医がいたとしたら、彼は危険人物である(笑)。

僕が失声にレスキューレメディーを勧めるのは、西洋薬では「とりあえず打つ手がないから」というのが大きい。

上で、5人中1名だけ全然効かなかった人がいると記載しているが、この女性は治療中、家庭内で大事件が起こった際に出現している。つまり、彼女だけ初診ではなく既に向精神薬を処方していた(サインバルタやラミクタールなど)。この差が大きいのかもしれないが、詳細は不明である。

失声が1ヶ月以上続いたため入院を勧めた。あまりにも長く改善しなかった場合、ECTをする予定だった。入院後、特別なことはしなかったが、1ヶ月以内に徐々に声が出るようになった。彼女には入院以後はバッチフラワーは使っていない。回復のパターンだが、最初は吃音が酷い人のようにカタコトだったが、次第に引っ掛かりがなくセンテンスが喋られるようになっている。

最初、彼女が声が出始めた当初は、看護者や家族ではなく、自分に対してしか声が出なかった。

彼女を診ていて思ったのだが、外来の場合、ある日再診したときに、既に綺麗に喋られるようになっている人が多い。だから、どのような順序で良くなったのか、個々の患者さんによく聴いておけば良かったと思った。入院の場合、毎日ではないにせよ、密に精神所見が観察できるのに対し、外来はかなりブランクが空く欠点がある。

しかし、これからが重要だが、ヒステリーの失声は、声が出るようになれば良いと言うわけではないのよね。よく考えると、当たり前だが・・

外来患者の場合、声が出るようになってからが大変。失声が改善すると、他の精神症状が一気に顕在化することがある。そこから、向精神薬を使うパターンになることが多い。

僕は、「あらら・・」と思うが、それからの方が方針は立てやすい。失声の状態は、ある種の仮面をかぶった状態で正体が見えない。(家族が同伴しているので、何が原因かは予想は出来るが・・)

レスキューレメディーであっさり失声を解消することが良いのかどうか疑問に感じていた時期がある。たぶん「早く良くなる」というのはそれなりにリスクがあるのである。

あの病態は、失声だからこそ精神が安定している面がかなりあるから。

以下は、ある女性患者さんの失声が改善し、1週間目に泣きながら話した内容である。最初、「腐ったりんご・・」と言っていたので、何のことかさっぱりわからなかった。以下は素早くメモしたものだ。

腐ったりんご・・
腐ったところを除くと、みんなが食べられるかもしれない。自分には広い視野が足りないと言われる。ずっと夫から言われていたのにピンと来なかった。


これはよく読むと凄い内容だと思う。彼女のこの言葉は、ある種の強迫の洞察になっている。