下宿屋のオバちゃん | kyupinの日記 気が向けば更新

下宿屋のオバちゃん

うちの病院の患者さんで、昔、「下宿屋のオバちゃん」だった人がいる。性格的には過去ログに出てくる典型的な「ウェールズ生まれの」女性である。

彼女は現在入院中であるが、ずっと暖かくなったら退院したいと言っている。彼女は今でもかつて下宿していた学生さんたちから、年賀状を60通くらい貰うらしい。

年賀状は所帯を持つと出すようになるが、独身、特に学生~就職したばかりの頃は、出す人は案外少ない。そんなこともあり、下宿屋をやめて長いこと経つのに毎年60通も貰うのは驚きである。昨年末、彼女は1通ずつ丁寧に自筆で年賀状を書いていた。本人は、

本当は歳をとって年賀状を書くのが大変なので、「もう来年から出さなくても良いです」と書きたいくらいです。

と笑いながら話していた。病棟婦長と「彼女はよほど面倒見が良かったんでしょうねぇ・・」と話した。

アメブロメールなどで、「ウェールズの人」とは「良い面のアスペルガー症候群」ではないか?と言う質問があったが、明らかに違う。

「ウェールズの人」は元々双極性障害系なので、ごく一部しか友人がいないなど、孤立した生活はしていない。また「慢性的な希死念慮」「耐え難い空虚感」などもみられない。

著しい空虚感、まるで空気のような存在。

といった訴えをする「ウェールズの人」は診たことがない。ウェールズの人は広汎性発達障害の人に比べ、現実に寄り添って生活している。

あと、ウェールズの人には「自明性の喪失」もみられない。自明性の喪失とは、誰でも普通は疑問に感じないようなものに対する根源的?な疑問である。(ある意味、哲学的疑問)

例えば、「なぜ自分には睡眠が必要なのか?」とか、「なぜ自分は生き続けなければならないのか?」などである。ちょっと驚くのは、「1+1はなぜ2にならなければならないのか?」というのも聴いたことがある。

また広汎性発達障害系の人に診られることがある「性同一性障害」などもみられない。アスペルガー的な「常識のなさ」も認められない。(ウタ・フリスはアスペルガー症候群の人は「常識がない」と記載している)。

想像性についてもかなり違う。ウェールズの人は気性が激しくても、相手の気持ちが予測でき配慮できるのである。だからこそ、人望が得られているかどうかの点でかなり相違がある。(常識がなかったら、普通は人が離れていく)。

つまり、ウェールズの人は生来性の脳機能の欠落所見はない(参考)。

彼女がもしアスペルガー症候群であったなら、未だに(彼女は80歳近い)かつて面倒をみた学生さん達からあれほど年賀状は来ないであろう。

過去ログでも以下のように記載したことがある。

ウェールズの人と広汎性発達障害の人は同じライン上にいるのではないかと思う人もいるかもしれない。しかし、コミュニケーション、対人関係などの点でかなり異なっている。ウェールズの人は、女性であれば、PTAの役員を積極的にやるとか、友人が多く、その中でもまとめ役をいつも任されるとか、広汎性発達障害の人々には難しいか、あるいは避けるような仕事ができていることが多い。

気性が激しいことと何か些細なことで大混乱してパニックになるのとは違う。これらが同じように見えるのは、広汎性発達障害の人たちが重要性の高い順番に精神所見を整理して理解できないからではないかと思う。

なお、彼女の処方は、

サインバルタ 30mg
マイスリー  5mg
アモバン   7.5mg
他便秘薬


で気分安定化薬は処方していない。

参考
ウェールズ生まれの
彼女の回想