じっとしておれない。ずっとぐるぐる廻っている。 | kyupinの日記 気が向けば更新

じっとしておれない。ずっとぐるぐる廻っている。

この患者さんは他科から紹介されている。ここ20年間ほど、うつ状態が続いており、当初は内科や脳神経外科に通院していた。その後、心療内科に通い始めたらしい。初診時は「神経が高ぶってイライラしている。夜は良く眠るが、朝は全然起きられない」という。

心療内科の処方
エバミール 1mg
トリプタノール 40mg
セルシン    2mg
ドグマチール 150mg
ジェイゾロフト  75mg


90歳を超えているのによく処方するよ、といったところ。特にトリプタノールとドグマチール。ジェイゾロフト75mgもこの年齢ではけっこう多い。老人に多めのトリプタノールを処方すると、その抗コリン作用が認知症様の症状を出現させることがある。たぶん、ジェイゾロフトで良くならないので追加されたものと思った。トリプタノールを追加するのがプロっぽいのだが、この患者さんではうまくいっていない。

だいたい、ずっとトリプタノールを処方されている人と、高齢になって突然トリプタノールを処方されるのでは全く体の反応は異なる。最初のSSRIが不調だったので追加してみたのであろうが、悪あがきのやり方が悪い。いつかうつ状態の人の「正しい悪あがきの仕方」というタイトルの記事をアップしたい(仮題)。

主訴は本来のうつ状態に由来するものはわずかで、実はジェイゾロフトとドグマチールによる副作用が大半と思われた(アカシジア様症状と神経の高ぶり)。これらの薬をまず漸減することにした。

初診時の処方
ワイパックス 2mg
ドグマチール 50mg
ジェイゾロフト 50mg
トリプタノール 25mg
マイスリー   5mg
デパケンシロップ 3ml


5日後。
家族によるとかなり良いという。イライラがなくなりスッキリしているようだと言う。まだ足腰がふらつくらしい。以前より、考える力が出てきた。夫が最近亡くなったこともありよく泣いているらしい。更に減量。

ワイパックス 2mg
ジェイゾロフト 50mg
トリプタノール 12.5mg
マイスリー   5mg
デパケンシロップ 2ml


その7日後
最近は体験したことを覚えている。また、前より考えられるようになっているという。はっきり物を言うらしい。とても食欲がある。「笑顔も出るようになりました」と。トリプタノール中止。

ワイパックス 2mg
ジェイゾロフト 50mg
マイスリー   5mg
デパケンシロップ 2ml


その14日後
体の動きが良くなり、考えるのも良くなったが、不安感が結構あると言う。すぐに泣くらしい。夫がなくなって以来、泣き癖のようなものがついた。感覚的には双極性障害っぽいが認知症もある程度みられる。人工的な認知症が若干回復したといったところ。不安感に対しセディール20mgを追加。認知症には抑肝散を追加する。これらには大きな期待はしていない。副作用と高齢なのを考慮している。

その1ヶ月後くらい
少しずつ良い状態が長くなった。泣き癖は変わらない。疲れた時に昔のことをいう。以前はそういう話は全然なかったらしい。ワイパックスとジェイゾロフトを減量。いったんデパケンシロップは中止してみる。

ワイパックス 1mg
ジェイゾロフト 25mg
マイスリー   5mg
セディール   20mg
抑肝散    5.0


その2週間後
ジェイゾロフトは25mgにすると、心気妄想が出て、あまり良くなかったらしい。ジェイゾロフトとワイパックスを元に戻して経過観察。

ワイパックス 2mg
ジェイゾロフト 50mg
ほか変更なし


その1ヵ月後
泣くのは3分の1に減少したと言う。7割方元に戻ったらしい。デイサービスに通う。冗談を言うようになった。昼寝は全くしない。夜は寝ている。思い切ってサインバルタを追加。ジェイゾロフトを再び減量。

ワイパックス 2mg
サインバルタ  20mg
ジェイゾロフト 25mg
マイスリー   5mg
セディール   20mg
抑肝散    5.0


2週間後
サインバルタを入れて良くなったという。テレビを観たり、落ち着きが出てきた。いつもゆっくりとしている。考え方がしっかりしてきた。これで十分かどうかは微妙だが、家族が良いと言うので処方は変えないことにした。

その2週間後
まあまあ良いが、何もない時に落ち着きがないという。不安感を訴えることがある。特に寝起きが悪い日は眼差しが険しいと言う。それでも冗談も出るし、笑顔もあるので全く悪いわけでもなさそうである。この機会にセディールを中止し、デパケンシロップ再開。ややサインバルタの奇異反応のような状況と思われる。サインバルタを中止するかデパケンくらいを追加するかだが、ジェイゾロフトをあれこれ増減しても埒が明かないので、サインバルタは継続。

デパケンシロップ 2ml 追加。
セディール中止。
ほか変更なし。


その2週間後
デパケンシロップを使うと、朝から調子が良い。「頭の中に霧がかかっていたのが晴れてきたようです」という。昼間は自分でテレビを観るし昼寝もする。今回、ジェイゾロフトは中止。

ワイパックス 2mg
サインバルタ  20mg
マイスリー   5mg
抑肝散    5.0
デパケンシロップ 2ml


更に2週間後
睡眠薬を中止しても大丈夫になったという。朝から顔つきも話もはっきりとしている。物忘れが非常に減った。顔色も良い。食事も良く摂れているらしい。サインバルタが奏功している。マイスリー中止。

ワイパックス 2mg
サインバルタ  20mg
抑肝散    5.0
デパケンシロップ 2ml


更に2週間後(初診5~6ヶ月後)
かなり元気である。2~3日前のことは以前は忘れていたが、今はすぐに思い出す。前よりすごく賢くなったという。診察室でも普通に話せる。特に支障はないらしい。家族が皆、喜んでいるという。

この患者さんは何が効いたかと言えば、サインバルタである。世の中には、うつ状態が関与する認知症様状態がずいぶんあることがわかる。デパケンシロップは認知症には良くないと思われるが、サインバルタのやりすぎを緩和し、気分安定化薬として働いている。

(おわり)

参考
ドグマチールと老人
水戸黄門